ところがコロナでクルーズもカジノも立ち行かなくなり、お金の尽きたゲンティン香港は、MVウェルフテン救済のための出資6000万ユーロも拒否した。1月10日時点では12月の給与も支払われていない。そこで仕方なく経済省が6億ユーロを注ぎ込み、今、手がけている豪華船だけは完成させるというが、すでに1900人の雇用が揺らいでいる。

MVウェルフテンの経営破綻が何を示しているかというと、従来の懸念材料であった技術の流出とは別に、これからは、救いの神だった中国企業が災いのもとに変わるかもしれないという事実だ。ドイツ人は破格なことに憧れがちで、それだけに中国人の広げる大風呂敷に魅了される。そして、中国人とウィン・ウィンの関係を構築した自分たちの才覚に満足し、中国人と歴史問題などでつまづいている日本人を少しバカにしていた。しかも、独中の共栄はこれからもずっと続くと思い込んでいた。しかし、今、その幻想がガラガラと音を立てて崩れ始めた。

ウィン・ウィンどころか中国優勢になっている

ただ、実際問題として、ドイツはすでに中国から離れられない。ドイツの自動車産業は巨大な中国市場に完全に依存している。しかも2025年には中国での車の販売数は、現在の2400万台から3550万台に伸びると言われ、投資も衰えていない。ディ・ヴェルト紙によれば、昨年BMWは中国に新たに10億ユーロを投資する予定だったというし、70年代から中国に進出しているフォルクスワーゲン社は、今では生産した車の4割が中国市場向けだ。同社の中国事業の歴史を見ている限り、天安門事件など存在しなかったかのようだ。

5Gの整備に関しては、他の多くの国々がセキュリティ問題を懸念してファーウェイの技術を排除しているにもかかわらず、ドイツは採用の方向に進むと思われる。ファーウェイを排除など、すでにドイツにはできない。独中ウィン・ウィンの時代は終わって、中国が優勢になっている。すでにフォルクスワーゲン社は、自動運転技術の開発でファーウェイとの提携を検討しており(日本経済新聞1月11日付)、同社のEVが走る盗聴器となることを懸念する声も上がっている。

なお、ドイツと中国の密着は、すでにあらゆるところで起こっている。国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長が中国の言いなりなのは日本でも知られているが、ドイツのオリンピックスポーツ連盟のトーマス・ヴァイカート会長も、今回のベアボック氏の冬季五輪のボイコット案に関して、「いい加減にすべきだ!」と憤った。