チョウ氏によれば、SYT社は中国でも有数のホールディングカンパニーで、資金を提供するGuo Qing社も20万人の従業員を抱えるゼネコンという話だった。ハーン空港を、中国人旅行者のメッカにするとか、独中貿易に特化した空港として大開発をするとか、勇ましい話が飛び交った。これが実現すれば雇用も増え、地域の活性化に役立つと、地元の政治家は浮足立った。

航空機の羽とタービンのクローズ アップ
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ところが、第1回目の支払いがなされず、調べてみると、SYT社の存在を、中国の商工会議所は知らなかった。南西ドイツ放送(SWR)の上海特派員が同社の本社を訪ねてみると、小さな部屋で、積み上げられた段ボール箱の間に5人の従業員が座っていたそうだ。

典型的なペーパーカンパニーだが、部屋に積み上げられた段ボール箱にちなんで、ドイツの新聞は同社を「段ボールカンパニー」と呼んだ。

ドイツの技術が中国に流出している

当然、商談は潰れ、その後の仕切り直しで、結局、ハーン空港は、その翌年に中国の海運大手の海航集団が買い取った。しかし、昨年、同社も倒産。空港は閉鎖されてはいないが、すでに展望はない。それにしても不思議なのは、普段は用心深いドイツ人が、なぜ中国に対してだけはこれほど無防備なのかということだ。

産業ロボットの先進技術を持つKUKA社が中国に買収されて大問題になったのも、やはり2016年だった。以来、さすがのドイツ政府も慎重になり、その後、中国の福建芯片投資基金(FGC)が試みたアイクストロン(Aixtron)社の買収は認めなかった。アイクストロンは半導体の生産設備(有機金属化合物半導体用MO-CVD装置)を手がけるハイテク企業で、正確に言えば、この買収をドイツ政府に止めさせたのは米国だった。米国は、同社の技術が中国へ流出し、核技術、ミサイル、人工衛星など軍事産業に流用されることを懸念した。

ただ、米国のアクションも、はっきり言って、時すでに遅しの感は否めない。今や北京のメルセデスの最新工場では、KUKAのロボットが活躍し、現地スタッフは「ドイツの技術と中国のスピード」と豪語している(現地で見てきた人の話)。また、アイクストロン社の持つ技術も、おそらく中国はすでに他の方法で手に入れているに違いない。

救いの神だった中国企業が災いのもとに転じる恐れ

さらに今年の新年早々、衝撃的なニュースが流れた。ドイツの伝統的な造船企業であるMVウェルフテンの経営が破綻した。同社は豪華クルーズ船の建造では世界一の規模を誇り、中でも現在建造中の「グローバル・ドリーム」号は破格。最高9500人の乗客と2500人の乗務員を収容し、甲板には遊園地やジェットコースターまである。こういう巨大なアイデアを出すのはもちろん中国人で、2016年よりMVウェルフテンはゲンティン香港の所有だ。豪華クルーズブームの最中、中国の富裕層の需要を見込んで20億ユーロが投資された。