先輩社員たちの「暴力による労務管理」
チームリーダーたちは、若手たちがこうした長時間の労働に「耐えられる」ように、暴力を振るっていたともいえる。睡眠不足でボロボロでも、暴力への恐怖で思考停止に陥らせ、命令された業務を忠実にこなさせるのだ。もちろん離職者は続出していたが、残ったAさんたちは、長時間労働にも理不尽な業務にも文句を言わない従順な社員に仕立て上げられていった。
そして、つもりにつもった不満は、自分が仕事のリーダーになったとき、後輩の若手社員たちに向けて爆発する。不条理な業務と過労死レベルの残業を受け入れられる社員だけが残り、「暴力の連鎖」は、連綿と「継承」されていたのだ。
確かに、このシステムは会社が意図的に作ったものではないだろう。だが、「暴力の連鎖」は、この企業において実に「効果的」な「労務管理」の方法として、「役立って」いたことは間違いない。
「この業界での通過点として耐えよう」
日常的に繰り返される暴力行為を、若手社員はどのように受け止めていたのだろうか? なぜ、すぐに辞めなかったのだろうか?
訊いてみると、まず、「殴られる自分が悪い」と思って、「受け入れていた」という答えが返ってきた。前述したように、暴力を受けるのは、基本的に業務で「ミス」をしたときだったからだ。もちろん実際には、長時間労働や過剰な仕事量がミスの背景としてあったのだが、それを問題視する意識はなかったという。
次に、女性を含む社員全員が暴力を振るわれており、先輩から過去の暴力の話も聞かされていたため、「みんな殴られているんだからしょうがない」「これが業界の常識なのか」と感じていたという。
さらに、「この業界での通過点として耐えようと思った」という言葉もあった。憧れていた業界であり、自分もこの世界で責任を持って活躍する立場になりたいというモチベーションで仕事を続けていたという。Aさんは、このモチベーションを失い会社を辞めたが、それ以前は、理不尽な扱いは「修行期間」だけで、「この立場を卒業すれば苦しみから解放される」という思いで耐えていた。