交渉の途中から怒り出したほうが譲歩を引き出せる

彼らの研究では、前節と同じように大学生を対象に、コンピューター(eメール)を仲介して携帯電話の契約をする実験を行う。ただ、実験参加者は、①「交渉の途中で幸せから怒りに感情が変化する」、②「怒ったまま」、③「交渉の途中で怒りから幸せに感情が変化する」、④「幸せなまま」の4つのグループに無作為に振りわけられ、グループごとに彼らの反応の違いを見ることになる。

反応の違いは、交渉相手の感情の変化前後で、実験参加者がどの程度提示条件を譲歩したかで測っている。その結果、「交渉の途中で幸せから怒りに感情が変化する」相手と対峙した実験参加者は、「怒ったまま」の相手と交渉したときよりも、悪い条件を受け入れていた。

一方、「交渉の途中で怒りから幸せに感情が変化する」相手と対峙した実験参加者は、「幸せなまま」の相手と交渉したときと比べて、交渉結果に差がなかった。また、「交渉の途中で幸せから怒りに感情が変化する」相手と対峙した実験参加者は、「交渉の途中で怒りから幸せに感情が変化する」相手と対峙した実験参加者よりも、大きな譲歩をしていた。

つまり、怒りは交渉に有効かもしれないが、最初から怒っているよりも、途中から怒り出すほうが、よりよい交渉結果を導けることになる。

では、どうしてこのような結果になったのだろう。

「相手の性格ではなく自分が悪い」と思わせられるか

ここで大事なことは、相手の感情をどのように判断するかという経路だ。

ずっと怒っている場合には、もともと怒りっぽい性格の人なのだろうと判断される。属性帰属という。一方、急に怒り出した場合には、こちらの行動(低すぎる提示条件など)が相手を怒らせたのではないかと考える。状況への帰属という。

頭を抱えるビジネスマン
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怒っているのが、相手の性格ではなくてこちらの行動のせいであれば、こちらの譲歩の余地が大きくなる。相手を怒らせた行動(たとえば、低い提示条件)を変えれば、交渉をスムーズに行えるからだ。しかし、性格的なものであれば、自分の行動を変えても、交渉結果への影響は前者ほど大きくない。

ずっと怒ったままのように感情表現が変わらない場合を対象としたこれまでの研究は、属性帰属への反応を検証した色合いが濃い。性格的に怖い人には譲ってしまうというものだ。

それに対して、感情に変化のある場合を対象にしたこの研究は、属性帰属への反応というよりは、状況への帰属への反応を検証したと言える。つまり、相手が怒り始めたのは、自分の提示条件に納得がいかず、受け入れがたいためであろうと考える。そこで、提示条件を変えれば交渉がうまくいくのではないかと考えて、譲歩するわけだ。