交渉の途中で機嫌がよくなる人は悪い印象を与える

このように、怒りの表しかたによって、その意味の受け取られかたが異なってくるため、感情が変化する場合には、感情が同じ場合と比べて違う反応を示したと解釈される。

余談ではあるが、ここまで見てきたフィリポビッツらの分析は、契約条件の有利不利のような客観的な結果にとどまらない。相手方の印象のように、関係性にかかわる主観的な結果に関しても、感情変化の重要性を示している。

意外にも、交渉の途中で怒った感情に変わる相手のほうが、一貫して怒っている相手よりもよい印象をもたれていた。ずっと怒っている人は、そういう性格だと思われて嫌われてしまう。逆に、途中から怒る人は、理由があったから怒ったと解釈されて、それほど不快に思われないらしい。

一方、交渉の途中で怒りから幸せな感情に変わる相手は、一貫して幸せな感情を示す相手よりも悪い印象を持たれていた。こちらが大きな譲歩をしたから機嫌がよくなった、と解釈されたのかもしれない。途中から急にご機嫌になる人は不快に思われる。

では、交渉中に感情の変化を持たせるのであれば、途中から怒りに変えればよいかというとそうでもない。交渉の途中で怒りから幸せな感情に変わる相手に対する印象は、幸せから怒った感情に変わる相手のものと変わらなかった。つまり、主観的な関係性に限れば、どちらかの変化のほうがよりよい印象をもたらすというわけではないようなのだ。

途中で怒り出すほうが効果的なだけでなく印象もよい

こうしてみると、交渉結果を有利にまとめたいのであれば、ただ怒ればいいわけではなく、幸せな感じで接し始めて、途中で怒るのが得策となる。また、途中から怒る人は、一貫して怒っている人よりもよい印象を持たれるので、今後の関係性の観点からも望ましい。

友原章典『会社ではネガティブな人を活かしなさい』(集英社新書)
友原章典『会社ではネガティブな人を活かしなさい』(集英社新書)

ただ、こうした作用は、相手の感情変化に注意を払っている場合にのみ有効なことに留意すべきだ。たとえば、ポジティブな感情は、ネガティブな感情ほど注意をひかないため、感情変化の効果が小さい。感情変化を交渉結果に仲介する経路がうまく働かないからだ。

今後の研究では、相手の感情変化に注意を払う(もしくは払わない)のはどのような場合かを詳細に検討する必要がある。

締め切り日のために交渉時間に制限があったり、慢性的なストレスがあったりして交渉相手の注意力が散漫になっていると、怒りに転じる交渉術が有効に作用しなくなるだろう。また、企業文化や職階によって、感情変化への対応が変わる可能性もある。本稿の交渉術がうまくいくためには、付帯条件に注意を払うことが必要だ。

【関連記事】
あいづちの語彙量が多い人は知っている「相手に同意できないとき」の絶妙な"切り返しフレーズ"
「強調したい箇所を赤色にすると逆効果」プレゼン資料で相手の目を引く"意外な色"
だから私はダメなんだ…「職場で心を病む人」が無意識に唱えている"呪いの言葉"
ブッダの言葉に学ぶ「横柄でえらそうな人」を一瞬で黙らせる"ある質問"
「忘れると8万5000円の損」年末調整で多くの人が知らずに損をしている"ある控除"