外国人が増える治安が悪くなると心配する人がいる。青山学院大学国際政治経済学部の友原章典教授は「最近の研究では、移民によって凶悪犯罪が増えるとは示されていない。犯罪率は移民そのものより、就業機会の少なさに関係している」と指摘する——。(第3回/全3回)
※本稿は、友原章典『移民の経済学』(中公新書)の一部を再編集したものです。
メディアや映画による悪いイメージが先行している
移民に反対する理由の一つとして、犯罪増加の可能性が危惧されている。実際、外国人による残虐な事件の報道を目にすると、移民は社会秩序を不安定化させるのではないかと不安になる人もいるだろう。しかし、メディアや映画などによるイメージが先行しているだけで、こうした不安は懸念にすぎないようだ。
最近の研究によると、移民によって、凶悪犯罪が増加するとは示されていない。ただ、犯罪や移民の種類によって、いくらかの違いはあるようだ。
たとえば、オックスフォード大学のベルらは、移民によって凶悪犯罪は増えず、窃盗犯罪の増減については特定の傾向はないとする。また、移民が犯罪を増やすというよりは、移民の恵まれない就業機会が犯罪を生むのではないかとする(注1)。
これは、イギリスにおける最近の二つの大きな移民流入の波(1990年代後半から2000年代前半の難民申請者〔第一波〕とEUに加盟した国からの2004年以降の移民〔第二波〕)を分析した研究結果だ。厳密にいうと、難民と移民は違うのだが、この研究では、難民も移民として扱われている。本稿の記述は、彼らの論文での呼称に従おう。
注1:Bell, B., F. Fasani, and S. Machin, 2013, Crime and Immigration: Evidence from Large Immigrant Waves, The Review of Economics and Statistics 95(4), 1278-1290.