今のところ、外国人によって犯罪が増えるという確固たる証拠はない。海外の研究では、移民によって凶悪犯罪は増えず、移民が多く住むところほど、犯罪率が低くなっている。いずれにしても、いたずらに不安をあおるのは、対立感情を生んで、外国人との共存を阻害する危険がある。かえって逆効果(犯罪を生む原因となる)かもしれない。一方で、移民の恵まれない就業機会が犯罪を生むという示唆は、受け入れ国にかかわらず、普遍的に当てはまりそうだ。
逮捕された移民を国外追放する“ムチ”の制度
多くの研究によると、移民が増えたからといって、犯罪が増えるわけではないことが分かった。そうはいっても、外国人を受け入れる以上、市民よりももっと襟を正した行動が期待されるかもしれない。同じくらいではダメなのだ。そこで、ここでは、どうしたら移民の犯罪が減るかという視点から、制度について見てみよう。
犯罪を抑止するための制度についての研究は、二つに大別される。一つは、移民に法的地位を与えれば、犯罪行為が減るというものである。もう一つは、犯罪を行った移民を国外に追放すれば、犯罪が減るというものである。この両者はアメとムチという正反対の方法だ。
移民制度の主な目的には、受け入れ国には望ましくない移民を排除し、一緒に住む移民に、住民としてふさわしい行動をとってもらうことがある。そのための一手段として、罪を犯して逮捕された移民を拘留したり、国外追放したりすることがある(ムチ)。
労働者として来てもらう方がよい効果を見込める
一方、非合法な移民に法的な地位を与える制度(アメ)については、いくつかの研究が犯罪率を下げる効果を認めている。たとえば、ノースウエスタン大学のベイカーは、約300万人の非合法な移民を合法化した1986年の移民法改正・管理法は、アメリカの犯罪率を3%から5%下げたとする(注3) 。こうした犯罪率の低下は、主に窃盗犯罪の低下による。また犯罪減少の大部分は、きちんと働ける機会が増えたためだと説明している。地位が保証されたため、合法的に働けるだけでなく、不当な低賃金に甘んじて働く必要がなくなったからだ。
こうして見ると、外国人の増加に伴う治安対策としては、国外追放のような強硬姿勢で抑止効果を狙うより、合法的に就業機会を与え、共存の道を探る方が賢明なようだ。本質的には労働を期待しながら、建前上は非労働者(留学生など)として入国してもらい、失踪して非合法な労働に従事した人たちを捕まえて国外に退去させるよりも、初めから労働者として入国してもらう方が、治安上はよい効果が見込める可能性がある。
注3:Baker, S.R., 2015, Effects of Immigrant Legalization on Crime, American Economic Review 105(5), 210-213.