「これが最後の警告よ。次に私の夫に近づいたらもう私も遠慮しない」
上場から半年も経たない2020年4月、最大の取引先でもあり3億元もの投資を行う株主でもあるアリババの幹部、蒋凡(アリババ2大ECの淘宝、天猫、およびそのビッグデータを活用して外部販売する阿里媽媽事業部の総裁)の妻がウェイボー上で張大奕へ突然メンションし、「これが最後の警告よ。次に私の夫に近づいたらもう私も遠慮しない」と投稿したのだ。
当然すぐ大騒ぎになり、ウェイボー上でも関連キーワードがホットトピック入りした。これらはなぜか、ただちにウェイボーの検索結果などに現れなくなった(ちなみにアリババはウェイボーを運営する新浪の大株主でもある)が、それでも騒ぎは収まらなかった。
巨大ネット企業EC部門の若きトップと、そのECプラットフォーム上で巨額の売上を上げる会社の顔である美女。2人の間にどのような関係があったかは今に至るまで明かされていない。しかし、私的な男女関係にとどまらず、アリババによる出資や淘宝内での扱いにこの2人の関係が影響していたとしたら、ルーハンの成功自体が公正な競争の結果ではないということにもなりかねない。
結局、アリババ側は内部調査の結果として、蒋凡はこうした重要な意思決定に関わっていないとしながら、「家庭内の問題を適切に処理できず、会社の名誉を傷つけ、広報上の危機を招いた」として、蒋凡の降格、合伙人(*4)資格の剥奪などの処分を行った。
そしてルーハンの株価も、一晩で10%以上暴落した。たった1人のイメージに頼って築いた数十億円もの売上は、またその1人のイメージが悪化することで簡単に吹き飛んでしまう、ということだ。
(*4)グループ最高幹部が持つ肩書で、法律事務所などのパートナー制度が近い。2021年8月現在、アリババには38人の合伙人がいる。
10万円の初期投資から売上5100億円に
2018年末から盛り上がりはじめたライブコマース。薇婭(英語名viya)は、それを牽引する「女王」とよく呼ばれる。毎日のように長時間の配信を行い、少ししゃがれた独特の声でテンポよく様々な商品を紹介し大幅な割引とともに売っていく。
淘宝ライブ専属の薇婭は知名度・売上ともに圧倒的なトップ選手だと言ってよい(図表2)。2003年、当時17歳だった薇婭は、北京動物園近くに小さな服屋を当時の彼氏であり現在の夫である董海鋒とともに開店した。最初の投資はわずか6000元(≒10万円)だったという。
その後、西安に移り、一時は7軒もの服屋を経営するまでに成功したが、2012年に家賃の高騰とECの急速な成長を見た夫は、これらの店舗を閉鎖、ネット販売に絞ることを決定した。その狙いは大きく当たることになる。