薇婭はライブコマースに参入する前、淘宝上で普通のECショップを経営していた2015年にはすでに年3000万元(≒5億円)を売っていたと言われ、個人商店としては相当な成績を収めていた。また、実は前項の張大奕ジャンダーイーと年齢も近く、活動期間もそう変わらない。

それがライブコマースの波に乗ってさらに伸び、2019年は年間で300億元(≒5100億円)、日本で言うとフジ・メディア・ホールディングスや日清食品HDなどの企業と同等の売上にまで伸びたということになる。

5分間で8億円のロケットを800人に販売

多いときで4000万人が見る薇婭の配信が売る力はすさまじく、1分で430トンの米を売り、タイからの配信では王族と面会して1回の配信で125万個もの商品を売り、定価4500万元(≒8億円)のロケットを、「今日手付金50万元を払えば500万元引き」と言って、わずか5分間で800人に払わせるなど、逸話には事欠かない。

彼女のカメラの前でのパフォーマンスは素晴らしく、そのお得な価格とともに視聴者を「買う気」にするプロ、一流のセールスパーソンであるというのは、衆目の一致するところだ。とはいえ、舞台に立つのが彼女であることは、それをすべて1人で取り仕切っていることを必ずしも意味しない。

10階建ての巨大な本社を構え、500人以上の従業員を抱える

KOLとしての薇婭は夫が経営するMCN「謙尋文化」に所属する。謙尋の本社は、浙江省杭州市のアリババ本社敷地内に置かれていることからも、アリババとの関係の深さがわかるだろう。その建物は10階建てで総面積3.3万m2、ここだけで500人以上の従業員を抱え、他に北京と広州にも支社を持つ。

そこにはスケジュール管理を行うマネージャーやアシスタントだけではなく、SNSの運営や宣伝、動画担当や商品管理、物流、アフターサービスなど多くの部門が入居している。コロナの影響で遅れているようだが、この他にも薇婭専用の1万m2もの面積を有する「スーパーサプライチェーン基地」が本来2020年1月に開設される予定だった。

この「基地」には1000以上のブランドが常駐し、その中を配信者である彼女が歩いて当日紹介する商品を決める。彼女の会社には、他にも40人ほど配信者が所属しているが、今のところ売上のほとんどは薇婭本人が占めている。いくら頻繁に配信されているとはいえ、薇婭という人間は1人しかおらず、総放送時間には限りがある。したがって、扱う商品は審査をクリアし、取引条件で合意されたものだけとなる。

化粧品や食品などジャンルごとに、その業界出身のプロ200人が一次審査を行い、その後本人チェックで合格したものが放送枠を得ることができる。毎日1000の引き合いがあるというが、3~5時間の配信の中で実際に紹介されるのはその中のごく一部だ。