日本政府が軍政を承認しない中での「民間外交」

笹川会長は、非公式のセカンド・トラック(民間)外交の交渉者として行動した。一般に使われている言葉で言えば、「フィクサー」として行動したわけである。ちなみに笹川会長の訪問の直前には、アメリカの元議員/大使/長官であるビル・リチャードソン氏(後述する笹川会長の関わったカーター元米国大統領の北朝鮮訪問に関与していたとされる)も電撃訪問を行い、ミン・アウン・フライン最高司令官と会談していた。

ミャンマー・ヤンゴンの市街地
写真=iStock.com/Oleksii Hlembotskyi
ミャンマーの最大都市ヤンゴンの市街地(2020年1月22日撮影)

米国政府も日本政府も、クーデターを起こした国軍の軍政を承認していない。フェンスター氏は禁錮刑に服していたといっても、軍政に批判的な記事を書いたために不当に拘束されていたことは自明だ。各国政府としては、超法規的措置で認めてもらうという恩を着せられる形での解放を交渉するわけにはいかない。

ミャンマー国軍がリチャードソン氏や笹川氏のような影響力のある外国人の「要請」を歓迎しているのは、軍政に対する国際的な認知を欲しているからだ。笹川会長は、国軍に対する支援はしていないが、日本財団としてのミャンマー各地への支援を約束している。形だけをとれば、「ギブ・アンド・テイク」の交渉が成立していたように見えないことはない。非常に微妙な一線がそこに引かれている。

フィクサーとしての行動をどう評価するか

各国政府が公式に「取引」に喜んでいるかのようなそぶりを見せてしまったら、次なる「人質」が交渉材料として生まれる危険性が高まる。もし国際社会の批判的態度が和らいだと国軍が解釈したら、ミャンマー市民はいっそうの危険にさらされる。実際、「笹川会長らの要請を受けてフェンスター氏を解放」した直後も、国軍は新たな市民の殺害・拘束戦を続けている(*7)。救われたのはアメリカ人のジャーナリストだけで、ミャンマー市民に対する抑圧はむしろ悪化している。

日本を含めた各国政府は、笹川氏の「交渉」を認知しない。認知を求めるのであれば、笹川会長は交渉をするべきではなかったし、実際、笹川会長はそれを求めていない。求めてしまえば、日本政府の立場のみならず、日本財団の支援ですら、その政治的意図や効果が怪しまれることになるからである。フィクサーとして行動した笹川会長の行動の評価は、極めて繊細な性格を持っている。