実は微妙な笹川会長の立ち位置
笹川陽平会長の日本財団は、ハンセン病制圧から小学校の建設にまで至る保健・教育に力点を置いた活動を、多数派のビルマ人地域のみならず、山岳部の少数民族地域においても実施してきた。それに加えて、笹川陽平会長が2013年に「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」に任命されると、日本財団は「平和構築」も視野に入れるようになった。
本来であれば、「モーターボート競走法」第31条にもとづいて、「競走の収益をもつて、社会福祉の増進、医療の普及、教育文化の発展、体育の振興その他住民の福祉の増進を図るための施策を行うのに必要な経費の財源に充てる」活動を行うのが、日本財団である(*1)。独立以来70年以上にわたって続いているミャンマーの内戦を終結させる調停活動は、このように定義された「施策」に含まれるだろうか。
日本財団のミャンマーでの活動の中心は、あくまでも人道支援活動である。「平和構築」を行うといっても、必ずしも調停活動までをするわけではない(*2)。ただし、それとは区別した形で、頻繁にミャンマーを訪問して日本政府代表としての活動をしている日本財団会長の笹川陽平氏についても伝えている(*3)。
「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」としての活動を行うのは、あくまでも笹川陽平氏個人であり、日本財団ではない、という微妙な一線が引かれたうえで、笹川氏と日本財団は表裏一体なものとして、結びつけられる。実はミャンマー人たちは、そこに日本政府そのものも結びつけて、一体のものとして扱う。
国際標準の「役割分担」とのズレ
笹川会長自身も、「沈黙の外交」を唱えながら、ミャンマーでワクチンが不足している現状を見て、「政治体制が悪いのは事実ですよ。しかしだからといって(ミャンマー)国民が苦しんでいるのに、人道支援をしないというのは、これはいけません。日本政府がもっと積極的に介入すべきことです」と述べたりもする(*4)。
ただしミャンマーでのワクチン供与は、「中立性・不偏不党性」を掲げる国連の人道機関やNGOに主に扱ってもらわざるを得ない。アメリカはミャンマー国軍の幹部に標的制裁をかけているが、国連人道機関に対する世界最大の資金提供国もアメリカだ。これがむしろ国際標準の役割分担である。こうした仕組みに異議を唱えながら、笹川会長は、何を目指しているのか。