大量の仕事を楽勝でこなしていた
ルーマンの生産性は、もちろん印象的です。
でも、刊行物の数や著作の質そのものよりも強い印象を受けるのは、これらすべてを、あたかもほとんど骨を折ることなく達成したように思えるという事実です。
ルーマンは、やりたくないことを無理やりやったことはない、と強調しただけではなく、次のようにも語っています。「私は楽なことしかしない。何を書くかがすぐわかるときにだけ書いている。ためらうようなら、それを脇に置いて、他のことをやる」
つい最近まで、ルーマンのこうした発言を信じている人はほとんどいませんでした。
私たちは、すぐれた結果には多大な労力が必要だと思い込んでいて、仕事の習慣をちょっと変えるだけで、生産的になるだけでなく仕事がおもしろくもなるということを、なかなか信じない傾向にあります。
でも、やりたくないことをやらなかったにもかかわらず印象深い仕事ができた、というより、やりたくないことをやらなかったからこそ印象深い仕事ができた、というほうが、ずっと筋が通っていないでしょうか。大変な勉強や仕事でさえも、自分の内から発したゴールと方向性が揃っていて、コントロールできていると感じられていれば、楽しくなります。
成功に努力は必要ない
問題が発生するのは、状況が変わっても対応できなかったときです。それは、融通のきかないかたちで仕事を組み立ててしまったことから起こります。
執筆の内容をコントロールするには、最初に思いついたアイデアで自分を縛らないようにしましょう。また、執筆中の時間や目的なども限定しないほうがいいでしょう。
特に洞察が必要な文章だと、そもそも執筆中に問い自体が変わってきます。仕事に使う資料が想像とまったく異なる場合もありますし、新たなアイデアが浮かんできて、仕事への視点全体が変化する場合もあります。こうした、小規模ながら絶えず発生する事態に対応して調整できるようにしておくことで、興味、モチベーション、仕事の方向性をすべて一致させておくことができます。これができれば、まったく、あるいはほとんど労力が必要ない仕事になるでしょう。
ルーマンは、プロセスの目の前にある大切なことに集中し、もし中断した場合も、その場から再開しコントロールすることができました。メモの構造がこのようなやり方を許していたからです。
大成功を収めた人物を研究した論文によると、成功とは強い意志力と抵抗に打ち勝つ力の産物ではなく、最初から抵抗を発生させない賢い仕事環境の成果であることが、繰り返し示されています。生産性の高い人は、不利な動きと正面から格闘するのではなく、柔道の達人のように抵抗をそらすのです。これは単に適切なマインドセットをもつだけの話ではなく、適切なワークフローをもつ話でもあります。
ツェッテルカステンとの連携によって、ルーマンはさまざまなタスクと思考レベルを自由かつ柔軟に切り替えることができました。ルーマンのやり方の鍵は、適切なツールをもっていることと、その適切な使い方の両方ができることです。そして、このふたつ必要だと理解している人はごくわずかです。