今年のGWからは北海道産を中心にしたミルクと茨城県産フルーツを使用した「ジェラート」を発売。長期間冷凍保存できるスイーツの開発は「サザコーヒーとしてのSDGs(持続可能な開発目標)でもあります」(太郎さん)と話す。
「経済最悪期に設備投資した姿勢をほめたい」
10月27日に戻ろう。式典終了後、太郎さんは父の誉志男さん、母の美知子さんら数人を生産現場に案内し、説明を始めた。「豆の包装内の酸素を極限まで押さえる特殊な技術で、焙煎コーヒーの鮮度を保てる。これまで1年だった賞味期限を3年に延ばします」
後日、会長の誉志男さんにお礼を述べると、こんな答えが返ってきた。
「新工場はHACCP(ハサップ。食品の製造工程における危害要因管理)にも徹底対応しています。それもさることながら、プロバットなどの焙煎機に数千万円かけた息子をほめてやりたい。コロナ禍の経済最悪期に多額の借金をして設備投資をした姿勢に対してです」
「サザコーヒーはこれまでも危機感を武器に成長してきました。経営者の無鉄砲に社員が奮起してくれるのもDNAです。私は息子の会社を潰さないよう、本店で皿洗いを続けます」
「青天を衝け」にもコーヒー器具を提供
誉志男さんも2021年1月に「渋沢栄一仏蘭西珈琲物語」(200グラムの豆は税込み1500円)を開発して売れゆき好調。大河ドラマ「青天を衝け」にもコーヒー器具を提供した。
10月27日、同社の社員たちは口々に「この工場がフル稼働できるように稼がないと」と笑って話していた。今後は大手スーパーにもコーヒー豆を供給する予定だ。
母の美知子さんは「『社長になったら会社が潰れる』とは言っていませんけどね。でも社長就任で社印を押すようになり、責任感を人一倍感じたと思いますよ」と語っていた。
同族企業の肉親関係はさまざまだ。時に対立し、言動で心を乱され、猛反発する例も何度か見てきた。今回は両親を案内して説明する「息子の背中」が象徴するように感じた。