介入されて理想の店にならず、「邪魔するな」

「大宮駅でも集客できたので、茨城県のJR水戸駅構内への出店オファーがありました。でもここで父が出てきて外壁のデザインやしつらえを『隠れ家』的にしようと主導し始めた。ターミナル駅のビルで人の往来が多い場所なので、コンセプトとしてはミスマッチです。

情に厚い一面もあるので、長年の友人たちと一緒に仕事をしたかったのでしょう。外装に資金を投じた結果、理想とする店にはならなかった。『邪魔をするな』と感じました」

父の鈴木誉志男さんが、家業の「勝田宝塚劇場」(1942~1984年)の一角に小さな喫茶店を開いたのは27歳の時。専門書や先輩店主の教えなどでコーヒーを学び、焙煎を試行錯誤。海外の産地に何度も通い理想とするコーヒーを追究し、茨城の人気店にした。

本店のカウンターで作業する父親の誉志男さん
写真=2018年、筆者撮影
本店のカウンターで作業する父親の誉志男さん

ひたちなか商工会議所会頭を長年務め(現在は名誉会頭)、会頭時代は話題性のあるイベントを多く手がけた。何度も取材してきたがソフトな人当たりで、本店には昔からの常連客が多く集まる。だが、父子の関係では少し違うようだ。

「実績はリスペクトしていますが、時代とともにお客さんの好みが変わり、飲食の味も店づくりも変化します。その折り合いをどうつけるか、自問自答していました」

2018年には東京駅前の商業施設「KITTE」(キッテ)にも出店。当時「会長の要望を一部受け入れなかった」と聞いた。来春には都内の別の場所に新店舗出店を予定している。

ファンをつかむ「真摯な味づくり」と「誤解を深める」

「東京都内に店があることで、毎日従業員にリアルな情報が入ってきます。周辺の競合店の情報もあれば、カフェのトレンドも把握できる。情報発信拠点としても最適です」

新社長の最近の活動を整理すると、大きく次の2つに分けられる。

(1)真摯しんしな味づくり
(2)誤解を深める

(1)はモノづくり、(2)はコトづくりだ。コロナ禍でも積極的で、今年の流行語候補に例えれば「ゴン攻め」ともいえる手法だ。

飲食の味には徹底してこだわり、試行錯誤して味を高める。一方で「誤解を深める」では周囲を驚かす仕掛けも行う。お客が(1)を評価するからこそ、(2)が生きるのだ。

(1)は、例えば1年前の2020年10月に「ゲイシャハンター」を発売。最もゲイシャ豆を熟知する社長が開発した3種の豆=パナマゲイシャ、エチオピアゲイシャ、コロンビアゲイシャのブレンドだ。豆の価格は100グラムで2000円(税込み)。安くはないが、同社の取り組みやゲイシャの価値を知る消費者から人気だ。

品評会で審査する鈴木太郎氏
提供=サザコーヒーホールディングス
品評会で審査する鈴木太郎氏