自動車業界の主軸はガソリン車からEVに変わっていく

だが、世界最大の自動車市場である中国では、政府の方針でEVが躍進している。そこでシェアを伸ばしていくには現地で安価かつ安定的に部品調達できることが必須の条件となる。EVの性能を左右する電磁鋼板の調達について、現地の宝山製を採用するというのは自然の流れだ。

他方で、日鉄は自社の技術に絶対の自信を持っている。宝山から電磁鋼板を調達する自動車メーカーが増えていることについて、日鉄の宮本勝弘副社長は、2020年8月の電話決算説明会では「当社の体制が整うまでの渡りの期間の話かな、と認識している」と発言していた。宝山からの調達が期間限定ではなく、恒久的になる恐れがあることから、危機感を強めたともみられる。

今後、自動車業界の主軸はガソリン車からEVに変わっていく。そうした大変化では、電磁鋼板以外の部品でも、自動車メーカーと部品・素材メーカーとの間での訴訟トラブルが続出する恐れがある。

特に電池やモーターの技術は、素材や材料を含め、日本企業が多くの基幹特許を押さえている。今回の電磁鋼板の問題では、日鉄は過去に韓国の製鉄最大手ポスコに対して裁判を起こし、その後、和解している。この件では、日鉄の技術を韓国側のスパイが盗んで違法にポスコ側に流したとされる。今回の宝山のケースも中国の「産業スパイ」が存在したとの疑いもある。

対立したままで、世界競争に打ち勝てるのか

自動車業界では米テスラが7~9月期決算で売上高が前年同期比57%増の137億5700万ドル(約1兆5700億円)、純利益は4.9倍の16億1800万ドルと、四半期ベースで過去最高を更新した。販売台数も73%増の24万1391台と、念願の年間100万台が視野に入ってきた。

そのテスラは中国にも工場を設け、着々とシェアを伸ばしている。近く米テキサス州やドイツにも工場ができる。中国の工場からは日本向けに輸出、日本のEV市場をリードする存在になった。ディーラーを介さないメーカーによる直接販売で浮いた費用で高圧・高電流の急速充電設備も自前で設置。国内メーカーのEVより速く充電できる体制を整備している。

2016年11月15日、深圳市テスラのスーパーチャージャー・ステーションでバッテリーを充電するテスラモデルS
写真=iStock.com/DKart
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かつて日本のガソリン車は「低燃費・低公害」で世界を席巻した。今度はEVの普及で、日本車が席巻される側に移る恐れがある。EVの中心技術である電池やモーターでは国内に有力メーカーが多くある。かつて車メーカーと素材メーカーがタッグを組んでハイブリッド車を開発したように、世界競争に打ち勝つためには、対立ではなく協業を前提とする必要があるだろう。

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