外資系企業にとって中国は簡単に捨てられる市場ではないが(香港のBMWショールーム2021年8月)
写真=iStock.com/winhorse
外資系企業にとって中国は簡単に捨てられる市場ではないが(香港のBMWショールーム2021年8月)

一方で、中国経済は今年に入ってコロナ後の力強い回復基調を見せたものの、今は足踏み状態に陥っている。国内消費が期待されたほど伸びていないのは、家計所得、特に低賃金の出稼ぎ労働者の所得が伸び悩んでいるためだろう。

「ほとんど階級闘争」の言説

上海在住の日本企業の幹部は、問題の根源には極端に大きい貧富の格差があると話す。「上海では配達員が10元(約170円)で昼食を済ます横で、ビジネスマンが500元を惜しみなくはたいて豪勢な食事をしている。これは危険な状況だ」

この幹部が指摘するように、中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ(1.0が最も不平等な状態)。

彼が恐れる最悪のシナリオは、経済が不安定になるかバブルがはじけて低所得層の不満が爆発することだ。当局は民衆の怒りをそらすため外国人を格好の標的に仕立てるだろう。

既に持てる者と持たざる者の対立をあおるような政治的レトリックが飛び交っている。最近ブルームバーグ主催のフォーラムで、PR会社アプコの中国法人会長、ジム・マクレガーは左派ブロガーの李の主張を問題にした。

李は、最近の中国政府の規制強化の動きを文化大革命を彷彿させる「社会主義の本質への回帰」だと賛美したのだ。「富豪は階級の敵だと言わんばかりの……ほとんど階級闘争のような」言説だと、マクレガーは危惧する。

もっとも、今の状況を毛沢東時代の文革に例えれば、重要な違いを見逃すことになる。「毛は(集団的な指導)体制を壊して権力を一手に握るため、混乱を引き起こそうとした」と、調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの共同創業者アーサー・クローバーは言う。それに対し「習は儒教的な国家の復興を目指している」というのだ。

文革のトラウマゆえ、中国の人々は混乱よりは極端な儒教的統治のほうがましだと思っているのかもしれない。どちらも、中国の持続的な成長を支える創造性とイノベーションを育むには役立ちそうにないが。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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