だが視点を変えると、この一件は「人質外交」の露骨な事例だ。中国当局は何年もの間、カナダ人2人の拘束と孟の逮捕は無関係だと主張していた。だが孟が自由の身になると、2人をすぐに釈放した。「中国の国力がこの結果をもたらしたのだ」と、人民日報系タブロイド紙・環球時報の論説は勝ち誇った。

中国駐在の外国企業幹部の中には、習近平国家主席が唱え始めた「共同富裕」という新しいスローガンに不安を感じている向きもある。中国の知識人の間でも論争が起こり、北京大学の張維迎教授(経済学)は、「(これでは政府の)市場介入がますます増え……中国を共同貧困へと導くだけだ」と批判している。

新しい「文革」の始まり?

このスローガンは「美しいフレーズだが、見ていて心配だ」と、上海の多国籍企業に所属する日本人幹部(匿名希望)は言った。「60年代の中国のように暴力的でも感情的でもないが、もっと洗練された形で『文化大革命』が始まるのではないか。今回は規制を使って外国企業を徐々に追い出そうとしている」

この幹部は3年前、中国当局が外資系企業内部に共産党の支部を作るよう党員に促す告知を目にしたという。「党は究極の権威だ。会社に何か要求してきたら? それは依頼であって既に依頼ではない」

そのため、現地駐在の外資幹部の間には不安と疑念が広がっている。「不安を抱えて息を潜めている会社もある」と、アトランティック・カウンシルのロバーツは言う。「駐在員は歓迎されなくなったと感じている。いずれ、もうここにいたくないと思うようになるだろう」

中国に残りたいと望む人々も、変化を痛感している。数十年かけて地方でいくつも企業を立ち上げた欧米人起業家は、規制の山や裏切り、官僚主義の壁に疲れ果てたという。撤退する気はないが、「私は中国を愛している。だが中国が私を愛してくれなければ何もできない」と語る。

半導体、金融、医療など、当面は大事にされる分野もあるだろうが、中国政府の最終目標は技術的な「自給自足」だ。さらにデータの使用や送信に関する規制が強化されていることもあり、外国企業は厳しい選択に直面している。

在中国EU商工会議所が9月初めに公表した年次報告書にはこうある。「国家安全保障の概念が中国経済の多くの分野に拡大され、自給自足の方針が強化されるなか、ますます多くの欧州企業が技術の現地化とサプライチェーンの国内完結か、市場からの退場かの選択を迫られている」

EU商工会議所が半年足らず前に出した報告書のトーンは今回とは全く異なる。前回はコロナ禍が収まり(デルタ株はまだ広がっていなかった)、中国経済は急回復しつつあるように見えたため楽観的なムードが支配的だった。だが今はどうか。EU商工会議所のイエルク・ブトケ会頭に悲観的な気分を1から10までで表すとどのくらいかと聞くと「8くらいだ」との答えが返ってきた。