もしあなたが講演を頼まれたとき、どれぐらいの金額を設定するだろうか。歯科医師で講演活動も行う井上裕之さんは「遠慮して低くする必要はない。自分の価値を認めてくれているのだから、高い金額を請求するべきだ。それは結果として、仕事の質を上げることにつながる」という——。

※本稿は、井上裕之『人生を自由にしてくれる本当のお金の使い方』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

大人数の前に立っている人
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仕事の安売りは自分の価値を下げる

「転職者が希望年収を聞かれたとき」「フリーランスがギャランティの交渉をするとき」「取引先から見積書の提出を求められたとき」「新規事業をはじめたとき」などは、安売りしすぎないことが大事だと私は考えます。

先日、ある方(Bさん)から、次のような相談を受けました。

「ある企業の講演会に招かれて、登壇することになりました。先方から『登壇料の見積りをいただきたい』と言われたのですが、見積額を決めかねています。人前で話した経験がないので、相場がわからないんです。井上先生、いくらくらいにすればいいと思いますか?」

私が具体的な金額をお伝えすると、Bさんが、「え! そんなに高くしても、大丈夫なんですか?」と驚いた表情を見せたので、私はこう続けました。

「講演料は、Bさんの仕事に対する正当な評価ですから、低くする必要はないと思います。『交渉するのは面倒だ』『高い金額を請求すると、相手を不快にさせるのでは』といった理由で低く見積らないほうがいいでしょうね。見積金額を下げることは、『自分で自分の価値を下げること』『自分には低い価値しかないと認めること』と同じです」

適切な価格を受け取ることで覚悟と責任をもって相手の期待に応える

仕事の値段(ギャランティ)を決めることは、「自分自身の価値を決めること」です。安い仕事ばかり受けていると、自分の価値を下げてしまいます。

ひとたび「あの人は、安くても引き受けてくれる」というレッテルを貼られると、「それが当たり前」になってしまいます。

「次の仕事も、安い金額でやらざるを得ない」
「金額を上げるのが難しい」(上げてもらいにくい)
「他の会社を紹介されたときも、安い金額で受けることになる」

そのため、自分の仕事に見合ったギャランティを得ることができません。安いギャランティで受ければ受けるほど、収入の見込みは下がります。

高い金額を請求することは、仕事の質を上げることにもつながります。

金額を高く設定した場合、「それにふさわしい成果を出さなければならない」「先方に納得、満足してもらわなければならない」と考え、仕事の質が上がります。

一方、価格を低く設定するのは、自信のなさ、覚悟のなさのあらわれです。

「金額を高く請求した場合、その金額に見合った仕事をしないと、相手に文句を言われるかもしれない。でも安くしておけば、少しくらいレベルの低い仕事をしても許してもらえるだろう」

こうした甘さ、覚悟のなさが仕事の質を下げるのです。

ここでは個人で依頼された仕事の話をしましたが、これは転職時でも、ビジネスの交渉時でも同じ。覚悟と責任を持って「相手の期待に応える」ためにも、「適正なギャランティ」を受け取るべきなのです。

もし、適性金額を下回る報酬を提示された場合は、相場価格を示して交渉を行うか、自分が希望する価格を提示して「可能かどうか」を検討してもらうといいでしょう。