田中はよほど多忙でない限り、週2日か3日を、この宴席出席にあてた。例えば、5つあるその日の宴席出席要請を3つほどに絞り、午後6時、7時、8時と設定、3時間で3つの宴席を駆け足で回るのである。場所は、赤坂、新橋、築地、神楽坂、向島といった具合にまちまちだから、車で移動する時間を考えると、一宴席にいられる時間は40分ほどということになる。

宴席の主役は田中だから、屏風の前に座り、設けた側の幹事あたりから「まあ先生、一杯」となるのがふつうだが、田中は座敷に入ると例によって「やあ、やあ」の第一声、屏風の前には座ることなく、集まった者たち一人一人のところに出向き、膝を折っては自ら酒を注ぎ、また返杯を受けては、話をするといった具合だった。

気取っている人間に、人は寄って来ない

こうした田中の幹事長時代の宴席に出席したことのある当時の自民党中堅議員は言っていた。

小林吉弥『田中角栄処世訓 人と向き合う極意』(プレジデント社)
小林吉弥『田中角栄処世訓 人と向き合う極意』(プレジデント社)

「私を支えてくれる選挙区の県会、市会議員10人ほどをお連れしたことがある。事前に『どの先生をお呼びしようか』と彼らに相談すると、一致した答えが『田中角栄先生』だったのです。先生は自分ら一人一人の前に来、さかずきを手に『おお、そうか。それは、こういうことだ』などと、偉ぶるところはまったくなしで、笑いのまじった率直な話をしてくれていた。料理には、一切手を付けずにです。国民に人気のある庶民派政治家とはこういうものか、先生が退席されたあとの出席者全員が『今日は本当によかった』と、先生にお目にかかったことを心の底から喜んでくれた。私も面目がたったものでした」

こうして、田中は週に2日か3日、3つばかりの宴席に出席、仮に一宴席の出席者が10人としても、1日に30人を“とりこ”にしてしまうことになる。これが週に3日なら90人、月に360人ほどが“田中ファン”になってしまう計算だ。年間なら、なんと4000人になる。

田中の広大無比と言われた人脈は、こうした形でもつくられた。そっくり返っている人間、気取っている人間に、人は寄って来ないということでもある。

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