※本稿は、小林吉弥『田中角栄処世訓 人と向き合う極意』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
人の心をつかむ“角栄流”スピーチの極意
スピーチに、
多くの数字と
歴史にまつわる
話を入れろ。
説得力が増す。
雄弁家とかスピーチ上手と言われる人の話の多くは知識満載なのが通例だが、帰り道に「さて今日の話はなんだっけ」と、結局はあとに何も残っていないことが少なくない。交渉事のやりとりも同様である。
田中角栄は演説やスピーチに、多くの数字と歴史にまつわる話を入れていたのが特徴的だった。同時に、人の情に訴えかけたり、夢を語ったりということも加わった。さらに、絶妙な間を取りながら、比喩や例え話なども織り交ぜ、笑いを誘いつつ、結びはビシッと締めたのである。
すると、例えば演説を聞き終えた聴衆はその帰り道、本題の内容は忘れても、小さな話のなかに妙に心に引っかかるものが残ったりする。ちょっとした夫婦の物語だったりで、聞き手としては「今日はいい話を聞いたな」と思わせるのである。
田中は「私の演説、スピーチは田舎のジイサンやバアサン、学生、会社の経営者など誰が聞いても分かるようにできている」と自信に満ちて口にし、それもまた「スピーチの極意のひとつ」としていた。
自分の言葉で話せ。
自分自身が
汗と涙で体得したことを、
自分なりの言葉で話せば、
相手の心に響く。
一方で田中は、「自分の言葉で話せ。借りものは必ず人が見抜く。世間は甘くない」と言っていた。スピーチと同様、本、テレビ、人から聞きかじった話などから拾ってきた知識では、人の心は打たないということである。
世の中には、その程度のことは百も承知という人は山ほどいるから、借りものはすぐに見破られる。稚拙でもいいから、自分自身が汗と涙で体得したことを自分なりの言葉で話せば、より説得力が増し、相手にも響くということである。