次々と中退していく新入生
防衛大学校に到着したのは4月1日。入校式は4月5日。この期間は通称「お客様期間」と呼ばれ、まだ防大生として正式に認められない期間となる。
最初は歓迎ムードで迎え入れてくれ、優しかった上級生も、入校式を終えて正式に「1学年」として認められると一転、厳しい態度になる。この数日間は、「すぐに防大をやめられる期間」でもある。
入校までに退校の意思を伝えると即日受理され、家に帰ることができるが、入校式を過ぎてからの退校手続きは完了までにかなりの時間がかかるようになる。上級生も、やめるなら早い方が本人のためになると信じているので、この「お客様期間」にあえて厳しい態度を見せつける。
ただし、まだお客様の1学年に、ではなく、2学年にこれでもかというほどの指導をし、1学年を震え上がらせるのだ。とはいえ、私は「仮にも幹部自衛官になると決意して入校してきたやつが、数日やそこらでやめるわけがないだろう」と思っていた。
仮にも軍隊組織であり、入校案内にも、「熟考し、しっかりとした自覚と、やり抜く覚悟を持って入校することを期待する」と書いてあるくらいだから、厳しい場所であることくらいは分かっていただろう、と。しかし学生の数は目に見えて減っていった。
わずか数日で1割が退校
私の隣に座っていた北海道から来た女子学生も、2日目までは「とりあえず最初の給料日までは頑張ろう」と言い合っていたのに、3日目には「ごめん、無理だわ、やめる」と去って行った。
毎日入校式のための練習があり、最後に学生代表が「総員○名!」と言う場面があるのだが、うろ覚えだが当初520名ほどいた学生が、入校式当日には470名超になっていた。わずか数日で約1割が減った。
ちなみに卒業時にはもう1割ほど減っている。私の3期上にあたる52期では、入校561名、卒業424名、退校106名、留年31名だった。また女子に限って言うとやめる割合はさらに高く、これまでの女子全体では入校したうちの3分の1は卒業前にいなくなる(直近5年間では6分の1)。
ただし一つ補足しておくと、やめていく人間というのは別に弱い人間でも、頑張れない人間でもない。単に自衛隊という組織に合わなかっただけだ。
自衛隊には「国を守る」という崇高な大義があるだけに、「みんな頑張っているのに、これを乗り越えられない自分はダメなんじゃないか」と思い悩んでしまう真面目な人間が必ずいる。でもそれは違う。組織がその人に合わなかっただけなのだ。
国の守り方、志の実現の方法など、ほかにもいくらでもある。やめることは逃げではない。自衛隊的に言うと、長い目で見て勝利を得るために必要な「戦略的撤退」だ。この点は声を大にして言いたいところである。