入校してすぐに叩き込まれる「連帯責任」

私の所属は第1大隊だとの指示を受け、校内を移動する。校門から学生舎までの道のりは桜が立ち並び、思わず見惚れてしまうような光景だった。防大のみならず、自衛隊の駐屯地には桜が咲き誇っている場所が多い。

一見美しく整備された防大を見て、「ここならやっていけそうだ」と何の根拠もない感慨が湧いたことを強く覚えている。そして1大隊に到着すると、学生舎の前で待っていた上級生に名を告げ、またしばらく待つ。

そのうちに、上級生の女子学生がやってきた。「よろしくね! 早く来てくれてよかった」。威圧感を感じさせない、明るい人だった。この上級生が、防大で導入している「対番制度」の相手、私から見た「上対番うえたいばん」だ。

対番というのは企業でいうメンターのようなもので、新入生にいろんなことを教えてくれる、なくてはならない存在だ。入校してしばらくは、ミスをするたびに上級生に呼び出されて叱責されるが、最初のうちは自分が怒られる代わりに「きちんとした指導ができなかった」と上対番が怒られることもままある。

自分のせいでなんの落ち度もない上対番が怒鳴られる姿を見るのは極めて心苦しい。「上対番のためにも早く成長しなければ」。こうして、入校ほどなくして「連帯責任」「誰かのために頑張る」ことを学ぶ。

基本的には2学年が1学年の上対番となるため、校内には四人の「対番系列」が存在することになる。

バックパックを背負っている人
写真=iStock.com/mangpor_2004
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「おぉ、軍隊だ……!」

「対番会」といって最上級生が下級生を街へ連れ出す独特の風習もある。対番系列は脈々と続いているものなので、自分の下対番が防大を去ることになると、「自分の代で対番系列を途切れさせてしまった」と悲しむことになる。

話を戻すと、「早く来てくれてよかった」と言われたのには理由がある。防大の生活はとにかく初日から忙しいのだ。まずは特にお世話になる指導官、上級生への挨拶を行う。そして制服の採寸から作業服への着替えに校内の案内、学生舎のルールの説明など、あっという間に時間が過ぎる。

身体検査も行われるが、この際併せて薬物検査も実施される。ちなみに、1学年の間は外出時にも私服を着ることが許されないため、学校まで着てきた私服はその後実家に送り返すことになる。移動中、他学年とすれ違えば敬礼を交わし、頻繁に「1300ひとさんまるまる舎前に集合せよ」といった専門用語を交えたアナウンスが流れる。

最初のころはそんな一つ一つに「おぉ、軍隊だ……!」と心の中で感動していた。私の住む寮は、学生隊で最も古い「旧号舎」と呼ばれる建物だった。「旧号舎」という字面だけでもいかめしいが、とにかく住環境としては全く褒められたものではない建物だった。