「大奥」と呼ばれていた女子フロア

クーラーなんてものはなく、あるのは大きな音を出すヒーターのみ。夏は暑く、冬は寒い。ベッドには真夏でも毛布しかない。時々、暑すぎて床に伏して涼を取る者もいたくらいだ。雨が降ると雨水が室内に浸入してくるのを防ぐため、窓の桟に新聞紙を折り曲げて挟む。

強風が吹けば、窓が割れないようにガムテープをバッテン印に貼る。「このガムテープになんの意味が?」と長らく思っていたところ、ガムテープを貼りそびれた窓は確かに割れた。ちなみに紙のガムテープだと剝がすのに苦労するので、布テープのほうがいい。どんなに昔の話かと思われるかもしれないが、恐ろしいことに、これは2010年代の話である。

今は全員が新号舎に移っており、さすがにこういったことはない。羨ましい限りだ。

建物の構造としては、1〜3階が男子フロア、四階が女子フロアになっており、女子フロアは心理的にも男子が極めて足を踏み入れにくいことから、「大奥」とも呼ばれていた。

テレビもない殺風景な8人部屋で生活

部屋員は1~4学年混成の4~6人で構成されていた。防大の部屋割は時代によって変化し、同期二人部屋という時期もあったが、「同期二人では堕落がすぎる」というのですぐに廃止となり、現在の学生舎では8人部屋が基本となっている。

部屋は居室と寝室に分かれ、居室にはそれぞれの机が置かれている。テレビやゲームはおろか不必要なものが全く見当たらない、いたって殺風景な部屋だ。漫画は持っていてもいいが、見えない場所に隠さなければならない。

高校まではかなりのテレビっ子だったので、テレビがない生活に戸惑うかと思いきや、とてもそこまで思いを致す余裕などないことをすぐに知ることになる。机の上の書籍は、綺麗に背の順に並んでいる。これを「身幹順しんかんじゅん」といい、何事もこの順序が自衛隊の基本となる。

パレードなどでも「身幹順に整列!」と指示される。ただこのパレードでの身幹順というのは、背が高い者から前に並んでいくため、女子は基本的に一番後ろに並ぶことになる。結果、女子の視界には男子の背中しか入らない。

忙しなく動く上級生の姿、清掃や点呼の厳しさを見て、誰しもが着校したその日から「これが防衛大か……」と息を呑むことになる。

ユースホステルの室内
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