自分と妻の両親は亡くなり、頼る人もいない。家に子どもを置いていくのは危ないし、奥さんはますます鬱が酷くなっていく。にっちもさっちもいかない状態だとおっしゃったんです。そんな状況でも「わたくしはシスターだから、具体的に何か援助することはできません」と伝え、「だからあなたのために毎日お祈りします」と言いました。

するとその男性は、大声を上げて泣き始めたんです。結構長いこと泣いたあと、彼は涙を拭いて「子どもは施設に頼みます。妻は病院に入れます。自分も日本に帰ったときには、子どもと妻に会いに行って優しく接します」と自ら答えを出しました。そして「この世で自分のために祈ってくれてる人が1人でもいる。それだけで生きていかれます」と言ったのです。わたくしの仕事って、これだけなんですよ。ただ黙って傍にいて、その人のために真剣にお祈りをするだけ。それでも心を軽くしてくれる方がいらっしゃるのです。

安らぎへ導く3つの絆

人間は「安心安全」を求める生き物です。「この場にいて自分が安心安全である」という確信を、悩みを持つ人は望みます。この安心安全の場所は、どうすれば見つかるか。「3つの絆」を大切にしてください。1に自分との絆、2に他人との絆、3に人間を超える存在との絆です。

聖心会シスター 鈴木 秀子さん
聖心会シスター 鈴木 秀子さん

まずは自分との絆を大切に。自分を責めたり、自分と喧嘩しないこと。神はあなたに命を与え、神の似姿としてつくられました。命あるものは一人一人みんな尊いのです。「自分は尊い存在だ」と言い聞かせる必要があります。だけどわたくしたちはそんなことを忘れてしまう。だからどこかうまくいかなくなるんです。

例えば家族が死んでしまったとする。「なんでもっと早く病院に連れていかなかったんだろう」と自分を責めるでしょう。あたかも自分は全能であるかのように思い込んでいるんですね。過去に戻って「すべて完璧にできたに違いない」という前提に立っている。自責の念は謙虚に見えて、実は最も傲慢なことの1つなんですよ。神様が愛してくれているんだから、良い悪いと言わないで、起こってくることを素直に受け入れてみましょう。時に自分を褒めて労ったり、自分自身との絆を大切にしてください。

他人との絆も大切です。人も自分と同じように、一瞬一瞬、神に命を貰って生かされてる存在です。人間の歪んだ目から見れば、良いとこも悪いとこもいっぱいありますが、神の目からすれば、親がわが子を可愛いと思う、その何億倍の愛情で私たちを見守ってくれています。だからある人が嫌だと思っても、人の尊さを思い、根本のところに立ち返ること。それがコミュニケーションの本質だと思います。