国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」の象徴として、カラフルなバッジを胸につけている人を見かける。素材メーカーでCSR担当を務める藤枝一也さんは「SDGsの本質は変革であり、バッジを付ければいいというものではない。そうした誤解をコンサルタントが広げているから、たちが悪い」という――。

※本稿は、藤枝一也ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)の一部を再編集したものです。

SDGs
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

ビジネスチャンスであれば独占したいはず

SDGsを広めたいコンサルタント等の専門家は「SDGsはビジネスチャンスです」「国や政府だけでなく、市民、企業などあらゆるセクターが取り組まなければなりません」「大企業だけでなく中小企業にも欠かせません」と繰り返す。

しかしながら、ビジネスチャンスとは本来、気がついた人が誰にも言わず秘かに取り組むことで利益を得るものである。したがって、国連が作成し全世界に公開されている17分類169項目の文書がビジネスチャンスになるはずがない。仮にビジネスチャンスであれば、全企業に普及させるのではなく、早く知った企業が独占したいはずだ。「SDGsはビジネスチャンス」と言うコンサルタントや専門家は、ビジネスの鉄則を知らないと公言しているようなものだ。

ビジネスチャンスではないので、日本企業の優秀なビジネスマンたちが「何から手をつければよいのかわからない」と悩むのも当然だ。そこへ「どの目標に貢献しているかを整理しましょう」「御社はすでに3つもSDGsに貢献していることがわかりましたね! 素晴らしい!」とコンサルタントが指導するので、企業側は胸に17色のバッジをつけるだけでSDGsに貢献しているような気分に浸れるのだ。

本質は「大胆かつ変革的な手段をとる」こと

SDGsの「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」前文には以下の文章がある。

〈すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する。我々は、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒やし安全にすることを決意している。我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。〉

(外務省ウェブサイトより抜粋。太字は筆者)

「誰一人取り残さない」というフレーズがクローズアップされがちだが、むしろ重要なのは「緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとる」だろう。現在の人類の活動は持続可能ではないので、行動を変革することこそ重要――ここがSDGsの本質なのだ。しかしながら、現実には何ら行動変革を伴わず、「我が社はSDGsに貢献しています」と喧伝する事例が再生産されている。