野田政権の誕生で、中央官庁の官僚が再び政治をリードし始めた。安住淳財務大臣は野田佳彦首相の陰で糸を引く財務省の力に抑え込まれて萎縮。防衛事務次官も政治家を飛び越えて沖縄に出向くなど、水面下で日米合意の実現に外務・防衛の両省が猛烈な攻勢を仕掛けている。
公務員制度改革の旗手として知られた霞が関の改革派官僚・古賀茂明氏も、二転三転した末、遂に経産省に辞表を提出した。原発を中心とするエネルギー政策は、経産省にとって“獅子身中の虫”だった同氏の辞任と前後して一気に息を吹き返したようだ。事実、この間に原発は北海道で再稼働し、山口県・上関町長選では原発推進派の現職町長が勝利した。経産省と東電は大新聞やテレビを通じて、「原発に代わる火力が電気料金の大幅値上げを招く」と国民を恫喝し続けている。
肝心の野田首相は、所信表明で国民に「脱原発」を約束したにもかかわらず、国連では「原発輸出政策の継続」を表明した。首相の脱原発方針には、「任期中に達成する具体的な廃炉スケジュールと目標数」がない。そのため、国民には「どうも本気とは思えない」と疑問視する声が多い。具体的な計画を伴わない脱原発は、「おためごかしの政策ビジョン」とみられても仕方あるまい。
この9月末現在、稼働中の商業用原発は54基中11基。電気事業法では、13カ月ごとに原子炉を停止させて定期検査を行うことが義務づけられているため、予定としては2012年5月までにすべての商業用原発が停止されなければならない。
だが、見通しはそう甘くはない。東電管内の9都県で2002年3月末に1万3000戸だったオール電化戸数は、08年3月末で45万6000戸、10年末には85万5000戸に急増している。
野田政権が本気で脱原発を進める気があれば、国内のオール電化に政策的な歯止めをかけつつ、稼働中の原発11基を「脱原発の初期値」として位置づけ、そこから10、9……2、1、0へと減らしていく具体的な計画提示が必要だ。目標値も提示せず、遠い将来に結果を持ち越す「脱原発」とは、つまり「原発維持」でしかないからである。
とはいえ、在野の専門家らによる放射線拡散調査の広がりと、それを支持する国民の強い意思表示は、とりあえず非開示情報の扉をこじ開けつつある。