自治体はきちんと「レッドカード」を出せるか
家宅捜索を受けたブリーダーは約1000頭もの繁殖犬を抱えていました。「今回の事案を重く見て、他の業者に対する立ち入り監視も実施する」と管轄の保健所の職員は話していますが、未然に対応できなかった自治体の管理体制にも疑問が生じます。1つの事業者が600頭との申請をした時点で、このような事態を想定して、注意深く見守る必要があったのではないでしょうか。
前述したように、ブリーダーの登録の有効期限は5年間ですが、近隣住民からの通報などがない限り、その間に自治体の担当者が訪ねてくることはありません。また、内見に来る担当者によってもチェックの度合いは異なり、問題が見られた時の対応もまちまち。そのような管理体制では、悪徳ブリーダーが抜け道を考えるのも無理ないのです。
今回の数値規制は「悪質な事業者を排除するために、事業者に対してレッドカードを出しやすい明確な基準とする」ということを主な目的としています。ブリーダーを淘汰できるかどうかは、自治体の管理がどこまでできるかにも左右されます。その目的が存分に遂行されるように、自治体の管理体制をしっかりと確立させる必要があるでしょう。
近隣住民の監視の目、飼い主の責任感がペットを救う
悪徳ブリーダーを摘発するには、近隣住民の厳しい目も大きな役割を果たします。家宅捜索を受けたブリーダーの場合も、自治体は事前に近隣住民などから通報を受けていました。近くにブリーダーが住んでいる、あるいは飼養施設がある場合には、日頃から厳しい目でチェックをし、問題があれば自治体に通報をしましょう。情報があれば自治体は必ず事実確認を行い、問題があれば指導を行います。
「ご近所だし、通報して恨まれたら困る」と考え躊躇する人も多いようですが、自治体は通報者の身元を明かすようなことはしません。声をあげることで近隣住民の生活を守り、またそこにいる犬や猫を劣悪な飼育環境から救うことにつながるのです。
コロナ禍のペットブームは前述した悪徳なブリーダーの増大だけでなく、安易に犬や猫を迎え、飼育放棄する飼い主も増やしています。ペットショップにおいては、誰もが代金を払えば犬や猫を迎えることができます。飼育に関する知識もないままに迎えたために「こんなはずじゃなかった」と後悔する飼い主もいて、動物愛護団体などに「引き取ってほしい」という相談が相次いでいます。捨てられた犬や猫もいると聞きます。
このような事態が続けば、今後は飼う側に対しても事前に飼育に関する研修を受けなければならないなど、何かしらの規制が必要となるでしょう。そして、ペットショップも単に譲渡するだけでなく、健全なブリーダーのようにその犬や猫の生涯にわたって飼い主と共にサポートしていく責任を持つ必要があるのではないでしょうか。
犬や猫は「命」ある生き物です。「愛情」と「責任」を持って接してほしいと心から願います。