ブリーダーが頼る動物愛護団体はすでに手いっぱい

家宅捜索を受けたブリーダーもこの「数値規制」は知っていたはずです。約1000頭もの繁殖犬を抱えながら、この時点で何の対応もしていなかったということは、ギリギリまで営業して廃業をするつもりだったのでしょう。

実際にこのブリーダーは家宅捜索後に廃業を宣言し、残された犬たちを埼玉県の同業者に譲っています。その迅速な対応から、もともと廃業後に譲る約束をしていたと考えられます。しかし、一部の犬たちは動物愛護団体に渡ったとのこと。「数値規制」により、繁殖犬の役目を終える、あるいは疾患を持つ犬たちを渡したのではないかと推測できます。

このことから筆者が懸念することは、経過措置が取られたとはいえ、行き場を失くす13万頭の犬や猫がどうなるのかということです。動物愛護団体は既に多くの保護犬・保護猫を抱えています。コロナ禍で譲渡会も思うように開けず、保護する犬や猫が増えるばかりで悲鳴をあげています。

ブリーダーは事業者の責任として、動物愛護団体等の手を借りることなく、自ら引退犬や引退猫の「終の棲家」となる譲渡先を探す必要があります。そこは安住の地でなければなりません。そのための経過措置であることを、決して忘れてはいけないのです。

「数値規制」だけでは減らない悪徳ブリーダー

しかしながら、「数値規制」をクリアしたからといって、健全なブリーダーであるとは言い切れません。

例えば、ブリーダーの中には、犬や猫が騒げば「うるさい‼︎」と怒鳴り散らしたり、物を投げたり、体罰を加えたりする人がいます。利益だけを目的とし、犬や猫の「命」を軽視しているブリーダーです。飼育環境を改装したり、従業員を雇える資金力さえあれば、犬や猫への愛情がなくてもブリーダーとして存続することができます。

表向きは健全なブリーダーを装いますが、「怒鳴る」「物を投げる」「叩く」などの犬や猫に対する態度は変わらず、精神的・肉体的苦痛を与え続けることでしょう。そしてまた、利益を追求するためにさまざまな法の抜け道を考えることになるのです。

筆者は「ペット業界に携わる者には、愛情がなければならない」と考えています。そもそも健全なブリーダーは以前から「数値規制」以上の良い飼育環境を整え、知識と経験を携え、全てにおいて健全性を追求しながら繁殖をしています。自ら飼い主を選択し、譲渡後はその子犬・子猫の成長を見守り、生涯に渡ってサポートを続けます。それは犬や猫に対する圧倒的な愛情から生まれた行動です。愛情があれば法の規制などなくても「命」に責任を持ち、健全性は保たれるものなのです。

「数値規制」と共に問わなくてはならないのは、ブリーダーの資質です。従業員にも同じことが言えると考えます。それは今後の大きな課題となることでしょう。