在宅治療する末期がん女性の“最後の希望”

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 8杯目』
鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 8杯目』

【原田】エンジェルフライト、読みました。面白かったです。海外で客死した人たちの遺体を運ぶ仕事を描いた作品ですね。

【佐々】ありがとうございます。その頃、ある編集者から在宅医療の医師について取材をしないかと声を掛けられたんです。

京都に彼の担当する作家がいて、原稿を取りに行くと、いつもお茶を飲みながら、世間話をしている医師がいると。志のある、すごい先生だからちょっと会ってみたらと言われたんです。

【原田】それが渡辺西賀茂診療所の医院長、渡辺康介さんだった。冒頭で、渡辺さんのスタッフが在宅治療している末期がんの女性の“最後の希望”を叶える話が出てきます。

【佐々】はい、彼女は家族と潮干狩りするという約束をしていたんです。

【原田】潮干狩りに渡辺西賀茂診療所の訪問看護師たちがボランティアとして同行する。医師や訪問看護師が患者さんの気持ちを分かって、その最期を大事にしてあげたいと考えている。

そこまでスキルフル(技能のある)人が、どれだけいるだろう、京都という街だから出来ているのかと思いました。

“病気を診ずして、人を診よ”

【佐々】ええ、京都は進んでいると思います。

“緩和ケア”一つとっても地域差がありますよね。私自身、この取材を始めるまで、身体の痛みや不快感を緩和する、“緩和ケア”についてほとんど知りませんでした。患者さんの痛みって、数値化できない。

(薬物投与で)痛みを止めるかというのは、医者のさじ加減みたいなところがあります。本当に痛みをとってくれる先生に当たれば、最期までいい状態で過ごすことができる。

【原田】緩和ケアは本当に難しい。とりだい病院でも強化しなければならないと思っているんです。緩和ケア、終末期医療を考えると、“病気を診ずして、(病)人を診よ”という言葉が浮かんできます。

特に大学病院では高度医療に集中しがち。病気を治すことに注力して、人を診るという境地まで到達するのは難しい。人を診るには、患者の日常生活まで見通さなければならない。医師だけでは無理です。そこで、とりだい病院では訪問看護をやっています。

【佐々】大学病院では全国的にも珍しいのではないですか?

【原田】ええ。看護師たちが、ご自宅を訪れると発見もあるんです。例えば、トイレが洋式でなかったりする。用を足すときに足腰に負担が掛かりますよね。そうした要因も考慮しなければならない。

ぼくたち、医師はどうしても自分と同じような生活をしているという思い込みで患者さんを診る傾向がある。でも患者さんにはそれぞれの生活があるんです。