93歳で老衰で亡くなった男性は、死の直前まで医師団による胸部圧迫を受けた。それは58歳の長男が「心臓マッサージをしろ!」と激高したからだ。胸部圧迫は40分間にわたり、最後は亡くなった男性の妻が「もうやめてください」と泣いて止めるほどだった。なぜそんなことになったのか――。
終末期のベッドで患者の手に手を重ねる家族
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「自分の死後は家族で勝手に決めてくれ」という考えが招く争い

自分が旅立ったあと、残された家族は仲良く、できれば豊かに過ごしてほしい。そう思わない人はいないだろう。そのために、大小、さまざまに準備するのが終活だ。自分の心残りを少しでも減らし、残される家族の先行きを思いやる。しかし、死後のことはなるべく考えたくない、家族で勝手に決めてくれという人もまた多い。そうした考えが何を生み出すか、事例を紹介しよう。

名古屋市に住むDさん(58)は、おととし、同居する父親を93歳で亡くした。父親は認知症を患い、死の数年前から認知機能が大幅に衰えて家族の顔を見分けられない状態で、ほぼ寝たきりになった。死因は老衰とされた。

Dさんには妹が一人いる。妹は父親が元気な頃から「いざというときに延命治療をするかしないかを言い残しておいてほしい」「できれば遺言を残して。正式なものが無理でも、財産の大まかな分け方だけでもいいから示しておいてほしい。兄ともめるのはイヤだから」と繰り返し父親に頼んでいた。

一方のDさんは「お父さんの死後のことを話題にするなんて縁起が悪い」の一点張りで、そのつど兄妹間でけんかが起き、それを見ていたためか、自分の死を考えたくないのか、父親は「延命治療の有無」にも「財産分与の方針」にも一切答えないまま、認知症が重くなり鬼籍に入った。