「終活」をしていても、葬儀が故人の希望どおりになるとは限らない。高級食材の買い付け業者だった72歳の男性は「簡単に家族葬で見送ってくれ」と親族に伝えていた。ところが、男性の死を聞いた同業者が「せめて最後のお別れをさせてください」と、仲間にも連絡を取った結果、静かな家族葬の会場に20人以上が集まってしまった――。
白い菊の花束を持つ喪服の女性
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葬儀の半数を占める家族葬

10年ほど前からにわかに増え始め、今や葬儀全体の半分近くを占めるようになったのが「家族葬」だ。家族葬は、葬儀に呼ぶ会葬者をあらかじめ限定し、少人数でゆっくりとお別れの時間を過ごす形式で、「家族葬」と呼ばれるものの家族のほかに故人の親しい友人などを呼ぶケースも多い。

終活関連サービスを提供する鎌倉新書の「第4回お葬式に関する全国調査(2020年)」によると、葬儀の形態は不特定多数の会葬者を想定する一般葬が49%に対し、家族葬は41%。2016年の同じ調査では、家族葬が3割強で、ここにきて急伸している。昨年からのコロナ禍でさらに増えたとみられている。会葬者が一般葬に比べて少なく、3密の心配をしなくていいからだ。

家族葬が増える背景に、葬儀を営む家族の負担軽減を求める声がある。家族葬なら、喪主や家族は挨拶から返礼まで気を使う必要はなくなり、心行くまで故人を見送ることができる。返礼はあっても少額だから金銭面の負担も小さい。上記の第4回調査によると、葬儀全体にかかった費用は、全国平均で119万円あまり(火葬場使用料、式場使用料を含み、飲食・返礼品費用、お布施は除く)。都内のある葬儀会社によれば、家族葬は数十万円程度で済むこともあるという。

ところが、実際には家族葬をめぐって、トラブルになることも少なくない。「故人と親しかったはずなのに、なぜ、お別れの機会を奪うのか」とクレームが出ることがあるのだ。

都内で小さな会社を経営していたCさんは昨夏、糖尿病を悪化させて死亡した。享年72。10年以上にわたって人工透析を受けていて、この数年はほとんど仕事もできないほど弱っていた。