抗認知症薬の効果は「症状を改善させること」ではない

アミロイドが原因とされていた当時の確信に支えられ、脳でアミロイドが合成できないようにしたり、できたアミロイドを減らしたりする薬の開発が世界で多数進められた。しかし、そのほとんどがうまくいかず中断してしまった。

かろうじて1種類の薬が承認される見通しになった。アミロイドがたまり始めてはいるがまだ少なめの人に投与する薬で、認知症の発症を遅らせ、発症後の進行を緩和させることを狙っている。認知症になってから改善させるのは不可能、という現代医学の限界はそのままだ(ちなみに、現在流通している抗認知症薬も最大の効果が「現状を悪くせず維持する」である)。

アミロイドPETで陽性(アミロイドがたまっている)だが認知機能の低下はわずかで、生活や仕事上は問題のない人(「軽度認知障害」)と、ごく軽度の認知症の人が対象になる見込みだ。将来認知症になる可能性はあるが、まだ認知症でない、すなわち病気でない人も対象とする「薬」ということになる。

通常、薬とはなんらかの病気をもった人が服用するものだ。病気でない人が予防のために服用するなら、感染症予防で行うワクチン接種に近い「予防薬」というものになるのかもしれない。認知症は、アミロイドに関する限り、前述のように、発症する30年くらい前からたまり出す。発症してからでは改善させられないのだから、発症前の人も対象に含む特殊な「薬」になる。

注目される新薬には大きな壁と限界がある

薬がもし承認されたとしても、発売には課題は多い。アミロイドがたまっている正常対象者をどうやって確実にみつけるのか。アミロイドPET装置は国内にまだ少なく、血液検査でみつける方法が検討されているが、いまだ見通しは立っていない。また、生活や仕事に支障はなくて、ごく軽度に認知障害のある人をどう見極めるのか。

上田諭『認知症そのままでいい』(ちくま新書)
上田諭『認知症そのままでいい』(ちくま新書)

逆に、「認知症発症を食い止められる」という楽観的な効果予想だけがやみくもに伝わると、薬の希望者が急増して医療費がまかなえない。さらには、「認知症を発症する時期が遅くなった」「認知症が軽くすんだ」という期待される効果の判定も難しい。

2021年6月、この新薬が米国で承認された。これで日本でも年内承認の可能性が出てきた。いま述べた懸念のほか、月1回点滴での投与で年600万円という費用の問題など、実際に用いるには壁がいくつもある。

この新薬に注目はしても、過剰な期待はできない。認知症が治らない病気であることに変わりはない。だからこそ、治さなくてよい、いまのあなたでいい、と受け入れたい。

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