80歳代の女性は、突然、会話がほとんどできなくなり、排泄もトイレ以外の場所でしてしまうようになった。同居する娘がかかりつけ医に相談すると「認知症になったから専門医のところに行くように」と言われた。ところが、これは誤診だった。高齢者精神科専門医の上田諭さんは「認知症を誤解している医療従事者は少なくない」という――。

※本稿は上田諭『認知症そのままでいい』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

車椅子に座っているアジアの高齢者
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「認知症の正しい理解を」という掛け声のウソ

「認知症の正しい理解を」という掛け声の下、医療職向けにも啓発活動が各地で行われている。しかし、その理解は「本当の理解」になっているのだろうか。表面的な「早期発見、早期介入」になっているのではないか。認知症診療をしていると、そう感じざるを得ないケースにたびたび出会う。

高齢者がふだんと違う言動や混乱した行動をとったら、すぐに「認知症では?」と考えるおかしなクセを医師や看護師がつけ始めているのではないか。それは「早期発見」でもなんでもない。認知症だと誤診することにつながる非常に安直な態度であり、まったく関係ない病気のお仕着せになりかねない。

認知症に気付いてその人に寄り添い思いやりを持った介入を行うことは、大切なことである。そのことと、認知症でない人を認知症だと早合点で決めつけて対処することはまったく違う。

認知症への対応以前に、認知症の診断を厳密に正しくしていることは大前提である。認知症かどうかの判断は、正しい理解に基づきとりわけ慎重に行われなくてはいけない。根治療法のない認知症は「最終診断」になるからである。