デジタル使用が「脳」の成長を阻害する

「仙台市在住の5才から18才の児童・生徒の3年間の脳発達の様子を、MRIを使って観察しました。すると、インターネットを毎日利用する子どもは大脳灰白質体積の増加に著しい遅れが見られたのです」

図表3で色がついている部分は、大脳灰白質体積の増加に遅れがみられた領域だ。色が濃いところほど、遅れの傾向が強いことを示している。

インターネット利用頻度と大脳皮質の発達
提供=川島隆太教授
仙台市在住5~18歳、224名の3年間の脳発達をMRIで計測。インターネット習慣が多い子どもは3年後、広範な領域で大脳皮質の体積が増加していなかった。ちなみに最初の時点で、インターネット習慣が多いものほど脳が小さいわけではない。

「大脳灰白質は大脳皮質とも呼ばれる神経細胞層です。ここが増加するということは、脳活動が高度に成長していくことにつながっています。2018年の研究結果では、インターネット習慣がない、あるいは少ない子どもたちの大脳灰白質の体積は、3年間で増えているのに対して、ほぼ毎日インターネットを使用している子どもたちの大脳灰白質は、3年間でほとんど発達していなかったことがわかりました。これを身体に置き換えて考えてみると、6年生の子どもが中学3年生になったのに、6年生のままの身長・体重でいるような異常事態です」

川島教授の研究では、大脳灰白質の神経細胞層だけでなく、神経線維層、つまり、神経細胞のネットワークの発達についても調べられた。図表4で色がついている部分は、発達が遅れている部分だ。

インターネット利用頻度と神経線維層の発達
提供=川島隆太教授
仙台市在住5~18歳、224名の3年間の脳発達をMRIで計測。インターネット習慣が多い子どもは3年後、広範な領域で神経細胞ネットワークである神経線維層の体積が増加していなかった。ちなみに最初の時点で、インターネット習慣が多いものほど脳が小さいわけではない。

「インターネット使用の頻度が高いと、大脳灰白質と小脳内を結ぶ神経線維の発達にも悪影響が出ていることがわかります。これらの結果を踏まえると、デジタル端末利用が学力を下げる理由は、脳そのものの発達を阻害しているからだと言えそうです」

脳の炎症が取れないことが原因か

デジタル端末利用がなぜ脳発達を阻害するのかについては現在研究中のため、ここからは川島教授の仮説になるが「睡眠の質を落とすことが原因の一つになっているのではないか」と考えているという。

「日中の活動で、脳をたくさん使うと、わずかな炎症が脳全体に生じます。通常は睡眠をとることで炎症が収まり、起床したときには脳はリフレッシュした状態に戻ります。私はインターネットの過剰利用により、脳が疲れてびまん性炎症が増強するうえに、ブルーライトなどの影響により睡眠の質が低下し、炎症を修復できないのではないかと疑っています」

ちなみに先述した3年間の脳発達の研究では、インターネットの使用時間は問うていない。

「インターネットを毎日利用する子どもの脳は、3年間ほどんど発達していなかったわけですが、この結果の中には、毎日利用しているといっても、1日たったの10分だった子も含まれています。つまり、インターネットの利用時間の長い子だけで見ると、もっと悲惨な結果が出ると想定できます」