ICTを使うと学力が上がるエビデンスがない
一人一台端末が導入されたといっても、実際にICTを授業でどのくらい使うかについては、教師の裁量に任されている。だが、文科省の基本方針は、教師に積極的な活用を促すものとなっている。
昨年12月には、小中学校でデジタル教科書を使う際には「授業時間数の2分の1未満」と定められていた要件を撤廃。ICTに熱心な教師がいれば、すべての授業をデジタル教科書で実施できるようになった。
2021年3月に出された「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」という通知では、「(ICTの)学習ツールの使用制限は安易に行うべきではないこと」や「デジタル教科書・教材の活用についても検討を進めること」「学校や家庭でオンライン学習やアセスメントができる『MEXCBT(メクビット/学びの保障オンライン学習システム)』の活用を検討すること」などが方針として明記されている。
このような“ICT積極活用”の方針に異議を唱えるのは、脳科学者で東北大学加齢医学研究所の所長を務める川島隆太教授だ。
「もっとも問題だと思っていることは、ICTを教育に用いることで子どもたちにどういう利益があるかというエビデンスが一切ないことです。逆に、ICTを教育に入れたことでうまくいかなかったというエビデンスは世界中で報告されています。コロナ対策ではエビデンス、エビデンスと皆さんおっしゃるのに、なぜ、日本の将来にとって一番大事な教育に関してエビデンスがないままに、このような無謀な社会実験が進められているのか、疑問でしかありません」
ICT教育がうまくいかないことを示す報告の一つに、OECDが実施している「学習到達度調査(PISA)」がある。2015年調査では72か国・地域から約54万人が参加し、コンピュータの利用が生徒の成績に影響があるのかが調べられた。
結果は、「ICTの教育への活用は読解や数学、理科において成績向上に影響がないこと」「ICTを授業であまり使わない国では、ICTを平均的に使う国々よりも読解力が劇的に向上したこと」「学校にコンピュータの数が多い国ほど、数学の成績は下がること」「学校でコンピュータを閲覧する時間が長いほど、読解力の成績は下がること」などが示された。
日本の研究でも「ICTは学力を下げる」
デジタル端末を使うと、成績が下がる――。
この事実は、川島教授が日本で行っていた研究の中でもはっきりと示されていた。
「仙台市教育委員会と行った『学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト』(2010年~)で毎年7万人を超える市立小中学校の生徒を8年間追跡調査した結果、スマホの使用時間が長い子どもの学力が下がることがわかっていました。スマホを使うことで睡眠時間や家庭学習の時間が短くなったりすると考えられるのですが、それらの要因を取り除いて統計処理を行いました。その結果、しっかり寝ていても、家庭学習をしていても、デジタル端末の使用が長くなると学力は下がることがはっきりしました」
なぜ、デジタル端末を長く使用すると学力が下がるのか。
その理由について川島教授は現在も研究中だが、2018年に大きなヒントとなりそうな研究結果が得られた。それは、控えめにいってもかなり衝撃的な内容だ。