脳が働くのはアナログな学習方法
冒頭で紹介した「デジタルドリルでは考えないで答えを出してしまう」「レポートもコピペで終わらせてしまう」といった“考えない学習”になってしまっている理由がうかがえる実験結果もある。
「『齟齬』『鷹揚』のように読めるけれども、正確な意味を言うのは難しいような言葉の意味を、紙の辞書を使って調べた時と、スマホを使ってウィキペディアで検索したときの脳活動を調べたことがあります。すると、紙の辞書を使ったときには前頭前野が活動しているのですが、スマホを使って調べたときにはまったく活動していないことがわかりました。スマホで調べるのは、紙の辞書で調べるより簡単です。だから脳は働かないのです」
実験後に、調べてもらった言葉の意味を聞いたところ、紙の辞書を使った人は4、5割答えられたが、スマホを使った人は一つも答えられなかったという。
「簡単にできたことは、簡単に忘れてしまうのです。脳に負荷をかけないと勉強になりません。だから、人類がラクするために生み出したデジタル端末で勉強させようというのが、そもそも間違っているのです」
川島教授によると、脳が働くのは「読書をしたとき」「音読したとき」「紙に文字を書いたとき」「人と対面で話したとき」など。こう聞くと、ICTを教育で使うのは休校要請があったときのオンライン授業や協働学習するときのスライドづくり、あるいは識字障害があるなどICTが助けになる子の利用など、必要なときにとどめて、それ以外の授業はいままでどおりでいいと思うのだが、いかがだろうか。とりわけ脳が未発達な小学生の利用は慎重に検討してほしい。
子どもは習わなくてもICTは使いこなす
今回取材したICT推進校の保護者は「学校で教えているICTの使い方は、小学校で教えなくても、子どもはすぐに習熟する。キーボード入力だって、スライドづくりだって必要になればすぐにできるようになるので、小学生時代はもっと土台となる学力を育てることをしてほしい」と訴えていた。
実際、子どもたちは教師より、よっぽどICTを使いこなしていた。たとえば、YouTubeのアプリに閲覧制限がかけられたら、見たい動画のURLをコピーして検索バーにペーストすれば見られるようになることや、ハングアウトというチャットが使用禁止になったあとも、授業で使うスライドで連絡したい相手にメンションするとチャットのように連絡が取れることなど「抜け道はある」と子どもたちが教えてくれた。
一方で脳が働くアナログな学習方法が減る悪影響は計り知れない。
「カーナビを使うと地図を忘れるように、キーボード入力をすると漢字が書けなくなるように、使わないと脳機能は失われます。このままICTを使った教育が公教育のなかで続けられたら、9割の子どもは自分で考える力を失うでしょう。多額の予算をかけて、なぜ、このようなことを行うのか。文科省の方たちには、私の異議申し立てに対して、ぜひ、エビデンスを見せて反論してほしいと思っています」