定期異動はなく、異動の90%が社内公募で決まる
社員自らキャリアを描ける風土があるかどうかもモチベーションに深く関わる。つまり会社がキャリア形成のための教育と配置の仕組みを用意しているかが重要な鍵を握る。
H&Mの特異な点は外資系には珍しく、部門を超えたジョブローテーションを頻繁に実施していることだ。同社はアルバイト、正社員に関係なく本人の意思と能力があれば様々な職種にチャレンジできる。
「アルバイトであっても結果を出していれば、正社員として仕事をするチャンスを与え、結果を出せば次はマーチャンダイザー、その次はフロアマネジャー、そして店長になるということは珍しくない」(山田マネジャー)
ちなみに山田氏の上司に当たるスウェーデン本社のグローバル人事責任者のサナ・リンドベリ氏自身、夏のアルバイトで入り、フロアマネジャー、店長を経て、グローバルマーケティングマネジヤー、米国法人社長というキャリアを築いてきたロールモデルの一人だ。そうしたジョブローテーションによるステップアップを背後で支えているのが「内部昇進制」と「長期雇用」だ。
生え抜きの社員を大事にし「日頃から店舗を回る際はマーチャンダイザーに興味のある人いる? とストアマネジャーにヒアリングし、ポストに空きが出ると抜擢するようにしている」(山田マネジャー)という。外資には珍しい内部昇進制を採る理由として挙げるのは「モチベーション」と「価値観の共有」だ。
「小売業の会社で店舗の販売員がいずれ企画などのオフィス業務に就きたいと思っても、遠い道のりに思えるが、当社ではオフィススタッフに上がっている人が多い。また、店舗内でもパフォーマンスがよければ1年で店長になる人もいる。それを見て自分もがんばればなれるのではないかと、モチベーションにつながる。もう一つ、当社は会社の価値観を非常に重視している。内部で育った価値観を体現できる人が他者にも影響を及ぼしてほしいという期待がある」(山田マネジャー)
価値観を共有し、会社の成長の要因にしていくためにも「長期雇用」を重視していると指摘する。ちなみに同社日本法人の社員は約900人。うち正社員は約半分の400人。非正規社員が圧倒的多数を占める日本の小売業に比べて正社員比率が高いのは、長期雇用重視の表れとも受け取れる。
内部昇進制と教育の重視は一対であり、新しい職種に変わるとトレーナーを付けた徹底した実務研修を行う。