SNSの活用は現代の企業にとってはもはや当たり前のこと。しかし、売らんかなの姿勢が見えると消費者は一気に去ってしまうという。フェイスブックでやってはいけないこととは?

会話を盛り上げる東急ハンズの「C to C作戦」

わずか7年前の2004年にSNS(Social Networking Service)をスタートさせたフェイスブックは現在、世界で7億5000万人もの利用者を獲得するに至っている。発祥地の米国ではすでに、国民の約半数の1億5000万人が利用し、ほぼ不可欠のコミュニケーション・ツールとなっている。

日本では、すでにミクシィやモバゲー、グリーなどのSNSが根付いていたのと、フェイスブックの一つの特徴である「実名制」に抵抗感のある人々が多く、普及度が低いといわれてきた。だが、それでも今日、約440万人の利用者がいる。

企業でもフェイスブックは、ホームページ、ブログ、ツイッターと並び、顧客とのコミュニケーション・ツールとしての認識が徐々に高まり、少なからぬ活用例が出てきている。今回は、それの模範企業といえる東急ハンズにお話をうかがった。

こちらでは、「東急ハンズ」という会社自体や取扱商品を対象にして、フェイスブックページ(旧ファンページ)のユーザーが盛り上がるためのコミュニケーションの「タネ」を提供しているという。同社新宿店EC推進課主任の本田浩一氏によると、「フェイスブックは、B to CでもB with Cでもなく、C to Cです」という。これは、東急ハンズをネタにしてユーザー同士がコミュニケーションを行い、東急ハンズというブランドをなるべく身近なものとして捉えてもらうことに狙いがあるのだ。

無論、ユーザー間のやり取りを放置しているわけではなく、東急ハンズ自身も書き込みに対してきちんとコメントを返している。このような双方向性を維持することによって、企業とユーザーとの間の距離はぐっと近いものとなる。興味深いことに、この種のやり取りを通じてユーザーサイドから教えられることがしばしばあるという。

例えば、同社ホームページには、バイヤーがお勧めするスグレモノ「ランキングベスト5」という人気コーナーがある。これをフェイスブック上で紹介したところ、閲覧者から早速書き込みがあったという。

それは、このコーナーではまだスマートフォンの対応がなされていないというものだった。EC企画課の緒方恵氏によると、「社内の人間でありながら、その事実については、この投稿で初めて知りました」という。その後、緒方氏は担当部署に問い合わせ、スマートフォンで対応できるようにした。双方向コミュニケーションが迅速なサービスの改善に結びついたケースといえる。

ただ、この種の双方向性は、ツイッターでも十分可能なように思われる。ところが、同社では、その差別性を明確に認識している。ツイッターはユーザーからの書き込みが時間の経過とともに順次消失してしまう。これに対してフェイスブックの場合、書き込みは残り続け、コミュニケーションが積み上がっていく。つまり、リアルタイムだけでなく、過去を振り返って、ユーザーと対話をなすこともできるのだ。

フェイスブックの優位性は、ほかにもさまざまある。東急ハンズでは、提供した話題のタネに対して、通常20件くらいの書き込みがあるという。ユーザーはある書き込みが気に入った場合、「いいね!」というボタンを押すことができる。これだけの単純作業で意思表示をすることができるのだ。ツイッターの場合は、必ず何らかの文章を入れる必要がある。これに対し、フェイスブックの「いいね!」ボタンはワンクリックですんでしまう。その簡便性は比較にならない。

ソーシャルメディア研究所代表取締役の熊坂仁美氏は、「フェイスブックの『いいね!』ボタンのすごいところは、外部サイトにも貼りつけられる点にある」と語る。例えば、企業のホームページにも「いいね!」ボタンを貼ることができるのだ。この種の操作のメリットは、外部サイトにつけられた「いいね!」ボタンを押してくれたユーザーのニュースフィードに、企業の情報が自動的に配信される点にある。つまり、外部サイトであってもフェイスブック内のコンテンツのように機能するため、コミュニケーション効果は非常に高いという。

熊坂氏からは、「いいね!」ボタンを活用したマーケティング・リサーチのケースについてもお話しいただいた。これはサティスファクションギャランティードというアパレル企業の例なのだが、同社はシーズンごとの新作を出す際に、サンプルをつくり、それの画像をフェイスブックページにアップする。そして、このサンプルに対する好感度を「いいね!」ボタンで評価してもらうのである。もちろん、人気度の高いものを優先的に製品化するのだ。サンプル段階で人気投票をして採否を決するので、無駄がない。

また、熊坂氏からは、フェイスブックのマーケティングの活用法として有名なターゲティング広告についても語ってもらった。フェイスブックの代表的な広告は、ページ内のアカウントから見えるバナー広告である。それは一見すると、ただのバナーであるのだが、一般のサイトにあるものとはその中身がまったく異なっている。例えばグーグルのバナー広告は、100人が見たら100人とも同じものが見えるのだが、フェイスブックの場合は、個人によって異なった見え方をする。それはユーザーの属性が男性なのか女性なのか、年齢は幾つなのか、どういう会社に勤めているのか、どういう趣味を持っているのかといった個人データに基づいて、カスタマイズされた広告が配信されるからである。その意味でまさにターゲティングがなされており、購買反応確率が高まることが予想される。

しかし日本の現状では残念ながら、性別の違い程度しか活用できないという。これは利用者の絶対数が少ないからである。このような事情を反映してか、日本ではフェイスブックを宣伝ツールとは考えないところが多い。またそれは正しい認識ともいえる。