もう一つのユニークな取り組みが「NEXT ME」だ。経営トップを含む管理職全員が自分の後任候補として3人を育成するというものだ。

「NEXT MEを3人育てろ、というのがH&Mの一つのキーワードになっている。2つの狙いがあり、一つは、自分の代わりが務まる人がいれば、育児休業など長期の休みもとれるというワーク・ライフ・バランスの観点。もう一つは、後継者を育てることで業務をシェアし、仕事の効率化を図ること。結果的にジョブローテーションもスムーズにいくという効果もある」(山田マネジャー)

もちろん、会社にとっても一人の人間が重要な業務を抱え込むリスクを回避するというメリットもある。

イケアにおけるキャリア形成は「自分の成長は自ら責任を負う」ことを基本にしている。したがって同社の定期異動は皆無であり、異動の90%以上が社内公募で決まる。だが、複数の選考試験があり、競争率が高いと不合格となる。

「選択肢は用意するが、選ぶのは本人であり、本人が前に進まなければ何も始まらないというメッセージを発信している。しかし、若い人の中には迷う人もいる。それをサポートし、アドバイスするのがマネジャーの役割であり、イケアのマネジャーは全員がヒューマンリソースマネジャーであるべきという考えだ」(下風マネジャー)

同社は評価面談とは別に、年に2回、上司と部下がキャリアについて話し合う「デベロップメント・トーク」を設けている。仮に将来、セールスマネジャーを目指すのであれば、上司から必要な知識やスキルの学習方法のアドバイスなどを受ける。一般的な社内公募は上司に内緒で応募するケースが多いが、イケアでは、上司自らがキャリアカウンセラーとなり、部下のキャリア形成の重要な役割を担っている。

両社に共通するのは、経営は“現場”にあるとの揺るぎない信念だ。現場の声を吸い上げ、戦略を組み立てることが企業の成長の源泉であり、そのための投資や労力は厭わない。遠く離れた北欧の企業が教えてくれるのは日本企業が失いつつある“現場を信じる心”なのかもしれない。