菅首相への根回しが済んでいたからではないのか

菅義偉首相は14日午前、首相官邸で記者団にこう話している。

「酒の提供停止の要請の具体的な内容について議論したことはない。そこは承知していない。すでに要請は撤回されているが、多くの皆さまに大変、ご迷惑をおかけしたことについて、私からもおわび申し上げたい」

これは「私は知らなかった、西村担当相の独断専行だった」という意味だろうか。当初、西村担当相が「金融機関にも働きかける」と自信満々に発言していたのはなぜか。それは菅首相をはじめとする関係閣僚への根回しが済んでいたからではないのか。

世論はそうした事情を見抜いている。7月12日のNHKニュースによると、NHKの世論調査(9日~11日実施)で菅政権を「支持する」と答えた人は、6月より4ポイント下がって「33%」と昨年9月の菅政権発足以降、最も低くなった。「支持しない」と答えた人は、1ポイント上がった「46%」で、政権発足以降最も高くなった。

「目的のためには手段を選ばぬような粗雑な発想」と朝日社説

7月11日の朝日新聞の社説は「西村氏の発言 信頼が失われるばかり」との見出しを付け、「目的のためには手段を選ばぬような粗雑な発想では、政策の遂行に不可欠な社会の支持は到底得られない。為政者はそのことを肝に銘ずべきだ」と厳しく書き出す。

私たち国民の支持が得られてこその政府の政策である。緊急事態宣言下で、東京オリンピックを開催しようという異常事態で起きた問題だ。西村氏だけではなく、菅政権全体が反省すべきである。

朝日社説は「コロナ対策の特別措置法では、緊急事態宣言などの地域では、酒を出す飲食店に時短や休業を要請・命令でき、従わない場合は罰則もある。だが、取引先を通じて経営に打撃を与えるようなことは、特措法にも緊急事態宣言の基本的対処方針にも書かれていない」と指摘したうえで、こう訴える。

居酒屋和食レストラン
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「それゆえ『働きかけの依頼』のかたちをとったのだろうが、金融庁や国税庁といった規制官庁からの『依頼』は、事実上の強制になりがちだ。一方で、金融機関は、ただでさえ資金繰りの厳しい飲食店の死命を制する力も持ちうる。結果として過剰な制裁になりかねない」

強制と制裁。この1年半、新型コロナ対策で営業を自粛してきた飲食店の負担は大きい。そこに強制や制裁が科されるようでは泣きっ面に蜂である。まずは滞っている協力金をできる限り早く、公平に支給することである。