「ふんわりさせる」という視点

何がダメだったのでしょうか? 答えは簡単です。心身の緊張が原因で姿勢が悪くなっているのに、さらに心身を緊張させて「よい姿勢」をつくろうとしていたからです。

これは逆効果でしかありません。これらの「よい姿勢」に、「しっかり」はあっても、「ふんわり」はありません。ここは断言したいのですが、私たちが健康的で幸せな人生を送っていくための「よい姿勢」には、「ふんわり」が絶対に必要不可欠です。

つまり、「ふんわり」と「しっかり」が両立していなければなりません。両方あって、はじめて「よい姿勢」と言えるのです。みなさんが親や学校に言われてきたのは、「しっかり」だけではないでしょうか?

世の中には、姿勢をよくする本や、ねこ背をなおす本がたくさん出ています。ある本は、トレーニングを勧めています。たしかに、姿勢を保つのに筋肉は必要ですから、間違ってはいません。

でも、体を「ふんわり」させるという観点が抜けているために、逆効果になってしまっています。まずは体を「ふんわり」させなければなりません。その結果として、背骨や体幹が伸び上がり、体を「しっかり」支えてくれるのです。

引き算で体はラクになる

この話の続きをするにあたり、まず私の経歴を紹介させてください。私は、アレクサンダー・テクニークの指導講師であり、その身体技法を臨床に導入して成果を上げている理学療法士です。

アレクサンダー・テクニークとは、簡単に言ってしまうと、よりよく生きるために体と心の扱い方を学ぶ学問です。ここでは、「しようとしていないのに、無意識にしてしまっていることをやめていく、引き算のメソッド」とだけ言っておきましょう。

ポール・マッカートニー、スティング、キアヌ・リーヴス、松任谷由実などの有名人が行っていることも知られています。日本では知名度がいまひとつですが、欧米では大学のカリキュラムに入るくらい普及していて、医療や芸術をはじめ、さまざまな分野で幅広く活用されています。

私はドイツ留学中、このアレクサンダー・テクニークのレッスンを受け、自分の背中の痛みがすぐに解消したのをきっかけに興味を持ちました。そして、帰国後に勉強を重ねて、アレクサンダー・テクニークの教師として国際認定されたのです。

私は理学療法士の資格も取っていたので、アレクサンダー・テクニークを患者さん方のリハビリテーションに活用していこうと考えました。最初は大阪の救急病院にいたのですが、リハビリの技量を認められたことで、神戸の某クリニックに誘われ、そこで理学療法士として8年間勤務していました。

このクリニックにおける私のポジションは、普通の理学療法士と比べるとだいぶ特殊なものでした。言うなれば、難治性の患者専門の「特命理学療法士」。クリニック内に個人ブースを与えられて、難治性の疾患に苦しむ患者さんを回復させるというミッションを担っていたのです。

私のもとに送られてくる患者さんには、大学病院がギブアップするほどの難しい腰痛の人もいれば、原因不明の不定愁訴に長年悩まされ続けてきた人もいます。また、うつ病を合併している人もいれば、交通事故後の首のケガの後遺症で裁判中の人もいます。いずれも複雑な事情があって、通常の治療ではうまく治らず、他の医療機関をたらい回しにされてきたような患者さんばかりです。

つまり、私はそういった「他の病院でお手上げだった方々」を回復させてきたのです。「あのクリニックでリハビリを受けると難しい病気が治る」という評判は口コミで多くの方々に伝わっていたようで、クリニックが混み合い何年も予約一杯の状態になったこともありました。