2010年代の日本ではスニーカーを愛用する女性が増えた。2013年に23.4%だった着用率は2014年には41%まで上昇。なぜ広まったのか。編集者の小澤匡行さんは「定番モデルの再評価とSNSが女性に広まった背景にある」という――。

※本稿は、小澤匡行『1995年のエア マックス』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

靴屋でスニーカーを選ぶ女性
写真=iStock.com/mustafagull
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スマートフォンが生んだのは「気軽さ」

2010年代は“テン”年代とも呼ばれる。アップルのiPhoneが日本に初上陸したのが2008年。以来、スマートフォンの普及は急激に進み、テン年代に入ると私たちの生活様式は一変した。

総務省平成30年「通信利用動向調査」によれば、2010年にまだ9.7%に過ぎなかったスマートフォンの保有率は、その後のわずか3年間で62.6%まで上昇している。2017年には75.1%まで上がり、初めてパソコンの保有率を超えた。つまり、この間人々が情報を収集するツールは掌に収まるようになり、デスクトップの前に身構えて、マウス片手に検索する時代でなくなったのだ。

コンピューターをパンツのポケットに入れたり、首からぶら下げたりする生活が日常になると、情報は能動的に取りに行くのではなく受動的に、それこそ呼吸をするように入ってくるようになった。スマートフォンの普及率の推移と同じくして、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が流行したのは、個人がメディアを持ち歩くようになったことの副産物だ。

買い物はオンラインが当たり前となり、待ち合わせの時間や電車内、そして就寝前のベッドの上でできるようになった。そしてファッションアイテムの中でもとりわけ、靴は試着しなくてもいい、迷いにくいカテゴリだ。足にぴったりとしすぎるくらいが正しい革靴ならフィッティングも重要だろうが、スニーカーにそこまで気を遣う必要はないだろう。しかもナイキやアディダス、ニューバランスなど、大手メーカーのシューズを一足持っていれば、ある程度のサイズ感はつかめる。

返品や交換のしやすさで、気軽に買えるアイテムに変化した

さらにエレクトロニック・コマース(EC=電子商取引)が当たり前になり、返品やサイズ交換にも寛容な世の中になった。スマートフォンとスニーカーの関係性に限った話ではなく、とりあえず購入してみて合わなかった、似合わなかったら交換する、もしくは返品するという発想は、こと若者にとって罪の意識など覚えることなく、当然のように行っていることだ。

因みにナイキもアディダスも、購入から30日以内であれば返品が可能とされている。アディダスは未使用品に限るが、ナイキは「何らかの理由で自分に合わないと判断した場合」を返品の対象にするなど、ややサービス精神が旺盛すぎるようにも個人的には感じているが。

返品方法は、通販で購入した際に同封された納品書に、返品のリクエスト番号を記入するか、QRコードをスマートフォンやタブレットのカメラで読み取り、指定の運送会社に集荷を依頼するだけ。アプリ会員であれば、送料無料で返品することもできる。

一昔前ではありえないサービスをスマートに享受できる時代は、同時にスニーカーをそれまで以上に、気軽に購入できるアイテムに変化させていった。