免許返納の強要→要介護者増加→国の介護費コスト増→人々の税金増

高齢者に免許返納を強いても、事故のリスクを劇的に減らすことにはつながりにくいが、6年後の要介護の可能性を2倍にする。75~79歳なら要介護率を13.7%から27.4%にしてしまうれがあるということだ。

こうした介護にかかるコストは介護保険料と税金で多くが賄われる。つまり、国民が汗水流して稼いだ給料から引かれる介護保険料と税金が増えることにつながりうる。

それでも、市民の安全のためには免許返納を迫るべきと考えるのか、サポカーをさらに普及させ、自動運転の開発を急ぐべきか(これが実用化した際に、免許を返納している人でも利用できるかの議論を含めて)をもう一度議論すべきだろう。

運転時を含め「意識障害」を起こしやすい人はどんな人か

私がもうひとつ問題にしたいのは、今回の飯塚被告の事故原因が本当に高齢のためだけかということだ。

もちろん飯塚被告が主張するように、車に不具合があったと言いたいわけではない。

ただ、飯塚被告が認知機能検査でもひっかからず、またふだんはそんなに危ない運転を常習的に行っていたという話は現在のところ報じられていない。

高齢者が事故を起こしやすい原因というと、主に「動体視力の低下」「体力や筋力の低下」「判断力の低下」の3つが挙げられる。要するに飛び出してきた子供をよけられないとか、運転技能が低下してあちこちにぶつけるとかというパターンである。道に迷った際に判断ミスでパニックを起こす可能性も含まれるだろう。

ハンドルを握る高齢者の手元
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テレビなどのマスコミが報じる高齢者の事故や危ない運転というと、通常は、暴走や逆走である。確かにアクセルとブレーキの踏み間違いはあり得るが、通常は上記の3つの加齢による高齢者運転の事故リスクで、暴走や逆走は起こらない。また、暴走や逆走を起こす人たちも日常的にそれをやっていることはまずない。

私が高齢者専門の精神科医の立場として疑うのは、意識障害である。

要するに、体は起きているが脳のほうが寝とぼけている状態だ。高齢者の場合、この症状が起きやすい。なぜなら、複数の持病を抱えていることが多いからだ。

意識障害は、例えば、血圧や血糖値が下がり過ぎて起こることも珍しくない。糖尿病は血糖値が上がる病気と思われがちだが、血糖値のコントロールが悪くなる病気である。つまり、高血糖だけでなく低血糖も起こりやすい。すると意識が混濁しやすい。

私が以前、高齢者専門の総合病院に勤務していた際、糖尿病専門医から聞かされたのは、正常値を目標に血糖値を下げると低血糖になる時間帯がどうしてもできてしまうので、認知機能が低下したり、失禁したりすることがあるということだった。実際、高齢者の場合、血糖値をやや高めでコントロールしたほうが生存率は高いという大規模調査の論文が次々と発表されている。

認知機能の低下などではなく、こうした持病や服薬の影響によって、危険運転につながる可能性は否定できない。それは、非高齢者にも言えることだ。