介護が子どもの未来を奪う

6月。オンライン面会で会った祖母は、変わらず元気そうだった。

「私は在宅介護には、やりがいや喜びはないと思います。ずっと、『この生活がいつまで続くのだろうか』と、半ば絶望を感じながらやってきました。2020年5月に、母親を介護していた20代の娘さんが、母親の首をしめて殺害した事件がありましたが、母親を殺めてしまった娘さんには本当に同情しました。もちろん殺人はダメですが、きっとつらかったんだと思います。私は絶対に殺しませんが、何度『早く死んでくれ』と思ったかしれません。介護って怖いですね……」

湖西さん自身、幼い頃は祖母のことが大好きだった。しかし、介護をするようになって、「幼い頃の楽しかった記憶が徐々に薄れてくる。ただただつらい記憶で上塗りされていく……」と苦悩していた。

「よく、『育ててくれたんだから、お世話になったんだから、介護をするのは当たり前』と言う人がいますが、介護経験があって言っているのでしょうか? 『思いやりのある介護』『介護される人の身になって介護する』といったイメージは、あまりに現実の介護と乖離しています。介護するとなったら腹を決めて、そんな理想は捨て去り、“介護する側”が介護しやすいように環境を整える。調べたり人に聞いたりして、少しでも情報を集める。最も重要なのは、必要以上に自分を責めないこと。これに尽きると思います」

湖西さんは現在、大学院進学と就活、両方で準備中だ。介護にとられていた時間を取り戻した湖西さんは、「TOEICや資格試験の勉強に充てたい」と話す。

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写真=iStock.com/Yasin Emir Akbas
※写真はイメージです

「日本って、一度レールから外れたら、その後戻るのが簡単ではないと思うし、そのフォローが何もない気がします。だから、現在介護をしている人は、介護のために離職したり、学校や勉強をやめたりしないでほしい。何とかしてやめずにすむ方法を模索してほしいと思います。祖母の介護をしていてつくづく、介護されている方、介護に仕事として携わっている方が、今より報われるような社会になるといいなと心から願うようになりました。このままでは日本は、介護で崩壊するのではないかと危惧しています」

現在母親は50代後半。あと20年もしたら、今度は母親の介護が始まるかもしれない。

「私自身は、もし結婚して子どもができても、将来自分の子どもには介護はさせたくありません。本音は、母の介護もしたくありません。だから、母には今のうちからしっかり、足腰を鍛えさせるなど、健康面に気を配っておかなければと考えています」

2020年12月から21年1月にかけて、厚生労働省と文部科学省が初めて行った実態調査によると、公立の中学校1000校と全日制の高校350校を抽出し、合わせておよそ1万3000人の2年生からインターネットで回答を得た結果、中学生の17人に1人(約5.7%)、高校生の24人に1人(約4.1%)が「世話をしている家族がいる」と回答している。

さらに、「自分の時間が取れない」が20.1%、「宿題や勉強の時間が取れない」が16%、「睡眠が十分に取れない」と「友人と遊べない」がいずれも8.5%。「進路の変更を考えざるをえないか、進路を変更した」という生徒が4.1%、「学校に行きたくても行けない」と答えた生徒が1.6%いた。湖西さんも中学時代から祖母の介護をしていたが、前出の調査では、こうした中高生の“ヤングケアラー”で、「誰かに相談した経験がない」という生徒がともに6割を超えた。

「子どもたちの未来を奪っている」と言っても過言ではない状況に、一刻も早く国は対策を打たなければならないだろう。

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