政府の掲げた「5本柱」で進んでいるのはワクチン接種だけ
5月26日付の社説で菅首相に五輪中止の決断を求めた朝日新聞(6月18日付)は「再拡大懸念下の解除 五輪リスク、首相は直視を」との見出しを大きな1本社説に付け、リード(前文)でこう書く。
「それに加えて、1カ月後に迫る東京五輪である。選手の行動は制御できても、祝宴ムードで人の流れが増えれば、感染拡大につながりかねない。国民の命と暮らしを守る重責を担う菅首相は、『五輪リスク』から目をそむけてはならない」
五輪は大きなお祭りだ。それゆえ人流は間違いなく大きく膨らむ。人流の問題をどう解決していくのか。菅政権の実力が試される。思うに「五輪リスク」とは五輪中止を求める朝日社説らしい言葉である。
朝日社説は指摘する。
「前回の解除時に政府が掲げた5本柱の総合対策は、ワクチン接種を除けば、多くは中途半端なままだ」
「追加の病床確保はさほど進まず、変異株の監視・封じ込め態勢も十分とはいえない。無症状者を対象としたモニタリング検査も、再拡大の予兆を捉えられているか甚だ疑問だ」
朝日社説の指摘は手厳しいが、これもすべて菅首相が頑固に五輪の開催を推し進めているからだ。菅首相にバランス感覚はないのだろうか。
一番大切なのは開催する勇気ではなく、中止する勇気
朝日社説は指摘する。
「首相は、国民の命と健康を守るのが前提といいながら、具体的なリスク評価を示すことなく、五輪開催に向けて突き進む。日常生活になお、さまざまな制約を受ける国民からすれば、『五輪は特別扱いなのか』という思いは拭えないだろう」
「社説はこの夏の開催中止の決断を首相に求めたが、政府は厳しい現実に目をふさぎ、もはや後戻りは出来ないといわんばかりの頑なな姿勢を崩さない」
菅首相は五輪の成功をバネに続投を目指す。だからこそ、菅首相にとって五輪は特別扱いなのである。「後戻りは出来ない」のではなく、周囲に目が届かないから切羽詰まった状況を自ら作り出している。
6月4日付の記事「『五輪開催の意義を語らない選手は不戦勝』産経社説のあまりに理不尽な主張は大問題だ」にも書いたが、一番大切なのは開催する勇気ではなく、中止する勇気なのである。