躊躇することなく、再び緊急事態宣言を出すことができるか
まだ間に合う。菅首相は五輪中止を視野に入れておくべきだ。五輪に失敗すれば、自らの政治生命を失うだけではない。世界中に日本の敗北を伝えざるを得なくなる。中国は喜び叫び、来年2月の冬季北京五輪のための絶好のエサ(糧)にするだろう。
朝日社説は「来日する選手の行動範囲は、宿泊先である選手村、練習や試合会場に限られるが、約8万人ともいわれる大会関係者は都内や近郊に滞在する。約7万人のボランティアをはじめ、食事や清掃、輸送、警備など大会を支える人々が、選手村や会場などに出入りする。感染のリスクは否定できない」とも指摘し、最後にこう主張する。
「政府の解除方針を了承した分科会の尾身茂会長は、再拡大の兆しがあれば、機動的に宣言に踏み切ることが前提だと述べた。首相は会見で、必要なら宣言や重点措置を行う考えに変わりはない、と述べた。その言葉通り、五輪の前や期間中であっても、再宣言をためらうべきではない。『開催ありき』『観客ありき』の発想では、国民の命と暮らしは守れない」
果たして菅首相は躊躇することなく、緊急事態宣言を再び出すことができるだろうか。これまでの菅首相の国会での答弁を聞いた限りでは、ためらって感染の拡大を許してしまうように思えてならない。
ほかのスポーツイベントと五輪は比較にならない
6月18日付の産経新聞の社説(主張)も大きな1本社説である。
産経社説は冒頭部分で「スポーツなど大規模イベントの人数については、緊急事態宣言や重点措置の解除後1カ月程度の経過措置として、会場定員の50%以内であれば1万人を上限とする新たな基準が設けられた。7月21日にサッカーとソフトボールで競技が始まり、23日に国立競技場で開会式を迎える東京五輪は、この経過措置期間中に開催される」「新たな基準が、東京五輪を念頭に置いたものであることは明らかだ」と書いたうえで、こう主張する。
「経過措置期間中の『上限1万人』は、尾身氏が会長を務める分科会が了承したものだ。尾身氏は『1万人の観客上限は東京五輪の観客の議論と関係ないことを政府に確認した』とも述べるが、五輪のみを特別視する提言は明らかな矛盾をはらむ。その解消は政治の責任である」
尾身氏は18日午後に日本記者クラブで提言を公表し、「五輪は無観客が望ましい」と訴えていた。この記者会見に先立ち、産経社説は「提言は五輪のみを特別視する」と問題視している。五輪はその規模で膨大な人の流れが予想され、他のスポーツイベントの比ではない。その意味で五輪は特別な巨大イベントなのだ。「五輪のみを特別視する」との産経の指摘は腑に落ちない。
「その解消は政治の責任である」も意味が分からない。矛盾の解消を政権の手で行えと主張したいのだろうか。
さらにこれに続く、「この際、菅首相は国民に向けて明確に五輪開催への支持、協力を求めるべきではないか。外国首脳に支持を求めて国民への姿勢が曖昧なままでは筋が通るまい」との指摘も分かりにくい。菅首相は五輪開催のために国民に感染拡大防止の協力を求めている。産経社説は協力を求めていないと考えているのだろうか。