なぜ枝野代表は五輪中止を求めなかったのか

6月15日午前、立憲民主党など野党4党は、共同で内閣不信任決議案を衆議院に提出した。菅内閣に対して不信任案が提出されたのは初めてだ。同日午後、不信任案は反対多数で否決された。

党首討論で菅義偉首相(左端)に質問する立憲民主党の枝野幸男代表(中央右)=2021年6月9日午後、国会内
写真=時事通信フォト
党首討論で菅義偉首相(左端)に質問する立憲民主党の枝野幸男代表(中央右)=2021年6月9日午後、国会内

これに先立つ6月9日、菅義偉首相と野党4党の党首による「党首討論」が国会で行われた。党首討論は2019年6月以来2年ぶりで、菅政権では初めてである。立憲民主党の枝野幸男代表ら野党4党の党首が質問に立ち、新型コロナ対策と東京五輪・パラリンピックの開催の是非の2つが討論の争点となった。

枝野氏の持ち時間は30分と一番長かった。しかし、迫力に欠けていた。とくに東京五輪については「本当に命と暮らしを守れるのか」と質問するだけで、五輪開催の中止は求めなかった。

なぜ、枝野氏は五輪の中止を求めなかったのか。10月までには解散総選挙が行われる。開催の是非について世論が割れている現状では、「五輪中止」を打ち出すことで支持者を減らすリスクを取りたくなかったのだろう。国民のことよりも、「次期衆院選で1人でも多く当選させたい」という党利党略しか考えていない。今回の枝野氏の迫力の欠如は、そこに起因する。

「東京五輪の思い出話」は国民の目にどう映ったか

一方、菅首相の答弁で具体的だったのは、「10月から11月には必要な国民、希望する方すべてを打ち終えることを実現したい」とワクチン接種の推進を打ち出した点に限られる。この裏側にも、ワクチンを切り札に東京五輪を成功させ、自民党が衆院選挙に勝つという党利党略が透けて見える。

異例だったのは、6分間にわたり、菅首相が1964年の東京五輪を振り返ったことだ。菅首相は「バレーボールの東洋の魔女の回転レシーブ、マラソンのアベベ、柔道で日本選手に敬意を払ったオランダのヘーシンク」と名選手の名前を次々に挙げた。これに対し野党は、「話が長い」「質問にまともに答えていない」とヤジを飛ばした。限られた時間のなかで、首相が「思い出」を振り返る姿は、国民の目にどう映っただろうか。

枝野氏以外の党首の持ち時間は5分だった。沙鴎一歩の目を引いたのは、共産党の志位和夫委員長とのやり取りだ。