志位氏は菅首相から五輪中止についての言質を取った
志位氏は政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長が五輪開催のリスクを問題視して「いまの状況でやるのは、普通ではない」と指摘していることに触れ、「新たな感染拡大が起これば、重症者、亡くなる方が増える。そうまでして五輪を開催しなければならない理由は一体何なのか」と菅首相に迫った。
菅首相は「国民の生命と安全を守るのが私の責務だ。守れなくなったら(東京オリンピックは)やらないのは当然だ」と答えた。この発言は菅首相の五輪開催への決意を示したものだが、裏を返すと、感染拡大が増大して中止することもあり得るという意味にも受け取れ、志位氏は菅首相から五輪中止についての言質を取ったことになる。
イギリス議会をモデルに1999年に導入された党首討論はここ数年、形骸化が指摘され、開催回数も減っている。野党にとって首相を追及できる時間が衆参の予算委員会に比べてかなり短いことがその理由である。
しかし、2年ぶりの開催とは言え、党首討論を開いた以上は、野党には首相から本音を引き出す義務があるし、首相にもきちんと答弁する責任がある。
野党を軽んじるのではなく、堂々と答弁すればいい
6月10日付の朝日新聞の社説はこう書き出す。
「質問には直接答えず、一方的に長々と自説を述べる。これでは、到底その言葉は国民に響かない。菅首相が初めて臨んだ党首討論は、与野党のトップが国民の前で、大局的な見地から議論を深めるという、あるべき姿からは程遠いものに終わった」
安倍晋三前首相の意を受けた菅政権を嫌う朝日社説らしい書き出しである。見出しも「党首討論 首相の言葉が響かない」と手厳しい。
たしかに、その場しのぎでこれまでの主張を繰り返す菅首相の姿勢には問題がある。東京五輪についても開催一辺倒で突き進むのではなく、中止も考慮に入れ、いつでも中止を宣言できるように準備しておくべきだ。そうした準備を怠るから、対応が後手後手になるのだ。
朝日社説は指摘する。
「立憲民主党の枝野幸男代表はまず、前回の緊急事態宣言の解除が早すぎたことが、現在の第4波につながったとして、今回は東京で1日あたりの新規感染者が50人程度になるまで続けるべきだと主張。首相に対し、基準を明らかにするよう求めた」
「しかし首相は、ワクチン接種への取り組みを延々と説明しただけで、前回の解除判断への反省や今回の解除基準に触れることはなかった」
なぜ、菅首相は枝野氏の質問にきちんと答えないのか。そもそも答弁しようと思っていないからだ。党首討論を自らの主張を繰り返す場としか考えていないのである。それゆえ、生の言葉ではなく、用意された資料に目を通しながらの説明となる。その結果、言葉が響かなくなる。
朝日社説は「お互いが対等な立場で意見を交わす場であり、首相が野党の政策をただすことは当然あっていい。しかし、聞かれたことには全く答えず、自分の言い分ばかり述べたてるのではコミュニケーションは成立しない」とも指摘する。政治信条が異なるとはいえ、野党の党首も国民の代表のひとりだ。軽んじるのではなく、堂々と答弁することで、首相の株も上がる。その点で残念なやり取りだった。