IOCが意地でも実施に向かうのは「放映権料」である
東京オリンピック・パラリンピックの開催まで2カ月を切った。沙鴎一歩は5月19日付の記事で「菅義偉首相は東京五輪を中止すべきだ」と主張したが、その思いは強まるばかりである。
登山でよく指摘されるのが、「引き返す勇気」だ。頂上が目前でも天候が悪化するなど危険が迫っているときにはそれ以上登るのを中止し、下山すべきだという戒めである。目指す山が高ければ高いほど、登山家は下山の決断に苦しむ。ここまで登ってきたのになぜ諦めなければならないのか。これほど悔しく、酷なことはない。だが、一番大切なのは登る勇気よりも、引き返す勇気である。
オリンピックも同じだ。政府や大会組織委員会は中止する勇気を持つべきである。なぜ中止を言い出せないのか。それは五輪開催に巨額のオリンピックマネーが動く商業主義が蔓延っているからだ。
夏の暑い時期に開催するのもオリンピックマネーが関係している。1964年の東京五輪は10月10日から10月24日までだった。ところがこの時期は全米スポーツで1番人気を誇るNFL(アメフト)のシーズン中になる。NFLは9月から始まるので、その前にずらせばIOC(国際オリンピック委員会)がアメリカのテレビ局から巨額の放映権料を得やすい。だから最近の五輪はどれも真夏開催になっているのだ。
欧米メデイアの多くも「五輪中止」を求めている
欧米のメデイアの多くは、五輪の中止を求めている。
たとえば、アメリカのワシントンポスト紙の電子版は5月5日付で「パンデミック下で国際的な大規模イベントを開催することは、実に不合理だ」と指摘。医療体制が逼迫する日本の現状を書いた後、IOCの姿勢を「利益優先だ」と批判し、「中止は痛みを伴うが、商業主義からの脱皮につながる」と訴えている。
イギリスのガーディアン紙の電子版も7日付で「五輪では多くの選手や関係者らが来日し、当然なことにウイルスも入ってくる」と伝え、「IOCが開催に固執するのは、巨額な金が存在するからだ」と指摘したうえで、「IOCの収益の4分の3は五輪のテレビ放映権料だ。それが無くなる恐怖にIOCは耐えられない」とまで酷評している。
そんななか、アメリカの国務省が5月24日、日本への渡航について4段階の渡航勧告レベルのうち、2番目に厳しい「渡航の再検討を求める」から最も厳しい「渡航の中止を求める勧告」に引き上げた。
引き上げの理由について国務省はCDC(疾病対策センター)の見解を挙げている。CDCは「日本へのすべての旅行を避けるべきだ。現在の日本の状況ではワクチンの接種が完了した旅行者でも、変異ウイルスに感染したり、感染を拡大させたりする危険がある」と忠告している。