新型コロナ患者への「生体肺移植」は世界初
京都大学医学部附属病院(京都市)が4月8日、新型コロナに感染した女性患者に生体肺移植の手術を施した、と発表した。京大病院によると、新型コロナ感染で肺の機能を失った患者への生体肺移植は世界初だ。記者会見で執刀医は「重篤な肺障害を起こした患者にとって生体肺移植は希望のある治療法だ」と語った。
健康な人の肺の一部を患者に移植する生体肺移植は究極の選択である。生体からの移植はドナー(臓器提供者)の健康な体を傷付ける。摘出後にドナーの肺は元通りにはならず、肺活量は2割も低下する。京大病院の生体肺移植ではドナーとなった夫と子供に、今後も大きな負担が残る。
望ましい移植は、脳死した人をドナーとする脳死移植だ。新型コロナ患者に対する肺移植は、欧米や中国でも実施されているが、すべて脳死移植である。どうして日本では脳死移植ができないのか。
後遺症で左右の肺が硬く小さくなって機能しなくなった
病院から「命を助けるには肺移植しかない」と告げられ…
女性患者は昨年12月に新型コロナに感染し、呼吸の機能が低下した。関西地区の病院に入院し、ECMO(エクモ、体外式膜型人工肺)を使った治療が施された。この治療でいったんは回復したものの、その後、再び肺の状態が悪化。さらにPCR検査では陰性となったものの、後遺症で左右両方の肺が硬く小さくなってほとんど機能しなくなった。
病院側が女性患者の夫に「命を助けるには肺移植しかない」と告げると、ドナーとなって肺を提供するとの申し出があり、京大病院で夫の左肺の一部と息子の右肺の一部をそれぞれ女性患者に移植することが決まった。女性は肺以外の臓器には障害はなく、意識もはっきりしていた。
4月5日に女性を京大病院に運び、7日に生体肺移植の手術を行った。手術は11時間かかったが、無事終了した。
これまでにも生体肺移植の過酷さは指摘されてきた。
たとえば、岡山大病院(岡山市)は、2013年7月1日、3歳の男児に母親から摘出した左肺の一部(中葉)の移植をしている。手術は成功し、記者会見で執刀医は「生体での中葉移植の成功は世界初で、男児は国内最年少の肺移植患者だ」と胸を張った。
しかし、男児は成長すると、移植された肺の容量が不足する。このため脳死ドナーが現れるのを待つか、父親の肺の一部を移植しなければならない。男児は肺移植を2度も受けなければならず、しかも母親の次は父親から肺を譲り受ける必要も出てくる。